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ダンジョンに入る前、僕は変なお兄さんに絡まれた。
ダンジョン救難団とかいう組織のメンバーで、この魔法アイテムを使えば救護に向かうと言って、僕の胸元に無理やり突っ込んできた。
変なお兄さんは怪しさ満点で、僕は思わず変なお兄さんから走って逃げ出したけど、服の中に突っ込まれたアイテムのことはすっかり忘れていた。
本当に助けに来るのかな……?
使い方はこのアイテムを折るだけだって言っていた。
どうしようかとアイテムをじっと見つめていたら、すぐ近くからモンスターの吠える声が聞こえてきた。
「ひい!」
モンスターが近くまで来てる!
走って逃げる体力はもうない。
身体を起こすことは出来たけど、僕の足はガクガクで、立つことは無理そうだった。
「もう何でもいいから、誰か助けて!」
僕は藁にもすがる思いで、そのアイテムを折った。
とたんに割った部分が、ぶわりと膨れ上がるように赤く輝き出す。
「な、何?」
半分になったアイテムは、ただただ強い輝きを放っていた。
「これだけ?」
輝きが収まっていき、割れた先の部分がぼんやりと赤く光るだけになった。
僕は黙って周りを見回す。
通路はシンと静まり返り、動く姿は何もない。
むき出しの岩の壁が、赤い光を鈍く反射していた。
「……誰も来ない」
期待していたようなことは何も起こらず、僕の胸の内から、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「騙された!」
僕は半分になったアイテムを壁に投げつけた。
アイテムはカラカラと軽い音を立てつつ、壁に跳ね返ってコロコロと転がっていった。
「こんなんだから僕はいつもバカにされるんだ!」
このダンジョンに入ったのも、冒険者になるのは無理だとバカにするクラスメイトのやつらを、見返すのが目的だった。
少しだけ奥に入って、何か宝を取ったらすぐに戻る計画で、取ってきた宝を学校で見せつけて、バカにしたのを取り消させるつもりだった。
でも、奥に行く前にモンスターの集団に見つかって、僕は逃げるはめになった。
「くっ……」
地面を殴って、僕は悔しさをぶつける。
「こんなはずじゃあ……」
悔しさに打ちひしがれていると、唸り声が聞こえてきて、僕ははっと顔を上げた。
唸り声がした曲がり角の方を見る。
すると、まず緑色の毛に覆われた鼻先が見え、時間をおかずに全身が現れた。
全身に緑色の短い毛がはえた、四足歩行の狼種モンスター。
緑狼だ。
「ひぃ!」
ついに追い付かれた!
僕は力の入らない足で必死に地面を蹴り、尻を擦りながら後ろに下がる。
けれど、こんなのは焼け石に水で、曲がり角から次々現れる緑狼は、僕に顔を向けたまま、弧を描くように並んで、僕との間合いを詰め始めた。
もう、ダメだ。
僕はこいつらにやられて、ここで死ぬんだ。