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4月4日


 四月四日。

 今日の喫茶“MARY”には、重苦しい雰囲気はなかった。

 

「привет」

「……まさか外国人とは」

「びっくりだねー!」

「いや、メアリーちゃんが驚くのはどうなのかしら」

「?」


 しかし、驚きは隠せない。

 何せこの間から来ていた大男が、まさかまさかの外国人であったからだ。

 確かに日本人離れしたいかつい顔だが、その髪も瞳も日本人慣れしたこげ茶色であり、一見してそうと見極めることは難しかった。


「Это, пожалуйста」

「え、あ、はいっ?」

「せんせー。サンドイッチとコーヒーだってー」

「あ、あぁ、成程ね」

「少々、お待ち下さい」


 男の注文は、またも聞き慣れぬ外国語で行われ、町田青年と夢見を困惑させる。

 しかし、メアリーが指摘したことで、取り敢えず注文は何とかなった。


「……メアリーさん、どうして分かったんですか?」

「えっとね。あのおじちゃんがね、メニューゆびさししてた!」

「成程。良く出来ました」

「えへん!」


 胸を張るメアリーを撫でながら、町田青年は手早く、丁寧に珈琲を淹れる。

 夢見がサンドイッチを作り終えたのを確認すると、その皿に、そっとある物を載せた。

 

「先輩?」

「お待たせしました、サンドイッチと珈琲です」

「…………」


 男はじっと、珈琲とサンドイッチ、そして……サンドイッチの傍らに置かれた、チョコレートケーキを見る。

 そうして、やや困った様に、町田青年へと話しかけた。

 

「……Мне очень жаль,торт не заказывали」

「此方は、今迄の非礼へのお詫びとなります」

「Извинения ?」

「お口に合うか分かりかねますが、よろしければ、どうぞお召し上がりください」

「…………」

「この度は不躾な真似をしてしまい、誠に、申し訳ありませんでした」


 言葉が通じているのか、いないのか。

 町田青年には今一つ分からないが、兎にも角にも、誠意は見せておきたかった。

 男は、少しだけ沈黙して……フォークで、丁寧にケーキを切り、口に運んだ。


「…………」

「…………」

「……вкусно」

「……ありがとうございます」


 言葉は通じずとも。

 ケーキを平らげてくれた感謝と謝辞を込めて、町田青年は頭を下げる。

 男の口が少しだけ綻んだことに、店内の客も夢見も、ホッと息をつき。


「……んふふー」


 店の空気が、少しずつ暖かくなって。

 メアリーは満足そうに、微笑んだ。


 ■メアリーの にっき■

 

 へんなおじちゃんは がいこくの ひとだったよ。

 だから これからは がいこくのおじちゃんって かくね。


 おじちゃんは がいこくのおじちゃんに ごめんなさいしたよ。

 ごめんなさいの ときに チョコケーキを だすのが ポイントなんだって。

 ごめんなさい できるの えらいのに チョコケーキだせるって おじちゃん すごいね!

 

 がいこくのおじちゃんは おいしそうに たべてくれたよ!

 なにいってるか わかんなかったけど またくるよって いってたきがする!

 たぶん!

 

 あしたもいいこと ありますように!

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