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4月3日


 四月三日。

 今日も、あの男が来ていた。


「…………」

「……何だね、この空気は」

「なんだろねー」


 それと同時に、六天縁が久し振りに来ていた。

 来店時は締め切りから解放されたのか、清々しい笑顔だったが、男が来てから現れた重苦しい雰囲気に苦い顔を浮かべている。

 首を傾げる六天縁に、メアリーはこしょこしょ、と小声で囁いた。


「なんかねー、じーっとみられてるんだよー」

「誰に?」

「あのおじちゃんー」

「おじちゃんというか、私からすれば若い兄ちゃんだが……ふぅむ」


 今も尚、メアリーを見つめ続ける男に、六天縁は顎を撫でる。

 次いで町田青年を見やれば、彼の目はこれ以上ない程に鋭く、冷たいモノとなっていた。

 まるで射殺さんばかりの目に、六天縁はやれやれ、と首を振り。


「ようし」

「おじーちゃん?」

「君も来たまえ」

「うん」


 すっく、と立ち上がった。

 客の皆々が注目する中、六天縁はずんずんと男に近付いた。

 ぴくり、と男が動くも、彼はお構いなしに言い放つ。


「隣、良いかね?」

「…………」

「おや、聞こえなかったかな。隣に座りたいのだが」

「…………」


 六天縁の言葉に、男はこくり、と頷く。

 了承と受け取り、六天縁はさっと彼の左隣に座った。

 更に、六天縁の左隣にメアリーを座らせ、男からメアリーを隠してしまう。


「珈琲以外にも何かどうかね。奢ってあげよう」

「…………」

「サンドイッチなんてどうかな。私も軽食によく食べるんだ」

「…………」

「店主君。サンドイッチを二つ頼むよ」

「……あ、はい、畏まりました」


 終始無言の男にめげることなく、六天縁は積極的に話しかける。

 友好的に振る舞う壮年に動揺しているのか、男は底冷えのする目で六天縁を睨んでいた。


「ここは良い店だ」

「…………」

「だが、まだまだ発展途上にある。時には誤りもする」

「…………」

「それを快く受け入れ、此方の方から歩み寄るのも大事だ」

「…………」

「良い店とは、そういった相互の信頼から成るものだよ」

「…………」


 信頼。その言葉に、町田青年はハッとする。

 今までの自分の態度が、メアリーを守る為とはいえ、曲がりなりにも客に対して、不親切に過ぎた様に思えたのだ。

 果たしてその言葉は、誰に向けられていたのか。

 六天縁は、敢えて語らなかった。


「……お待たせしました。サンドイッチです」

「おぉ。さぁ、食べようじゃないか」

「…………」


 サンドイッチを勧める六天縁を見て、男はおずおずと手を差し出す。

 そうして。


「……Спасибо」


 謎の言語を発した。

 ギョッと、店内の人々が目を剥く中、男は黙々とサンドイッチを平らげる。

 そうして、折り目正しい礼をすると、さっさと退店してしまった。


「……そう来るかぁ」


 誰かが発した一言が。

 店内の総意を表していた。


 ■メアリーの にっき■


 おじーちゃんと へんなおじちゃんが サンドイッチ たべたよ!

 そしたら へんなおじちゃんが へんなことば しゃべったよ!

 じゅもんみたいな へんなことば! へん!

 でも おもしろいね!


 でもでも おじーちゃんの おかげで みんなの くーき? がよくなった きがする!

 また あのへんなおじちゃん くるかな? ちょっと たのしみ!


 あしたもいいこと ありますように!


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