4月2日
四月二日。
昨日もそうだが、この日も、あの男がいた。
「…………」
「…………ねー、おじちゃん」
「大丈夫ですよ、メアリーさん」
見上げるメアリーを、町田青年がそっと撫でる。
彼の顔は、固く、引き締められていた。
「給仕は私がやりますから」
「えぇ、お願いします」
「おじちゃん?」
「……あまり近付かない様に」
夢見の言葉に応えながら、町田青年は男を見やる。
いかつい顔をした男は、じっと、メアリーが隠れているカウンターの裏へと向けられていた。
しかしふと町田青年と目が合うと、そっと男は顔をそむける。
まるで、やましい気持ちがある様に。
「…………」
「…………」
無言の時が流れる。
武人と武人が間合いを測る様な、緊迫感すらあった。
自然、喫茶店の空気が重くなる。
メアリーが和らげているものの、客達も何処か居心地が悪そうであった。
「…………」
「二百円になります」
「…………」
「ありがとうございました」
スッと、町田青年は頭を下げる。
どんな客でも、敬意を払うことを忘れない様にしていた。
男はそれに一瞥くれることもなく、店を立ち去った。
「……なんなんだ、あの男は」
誰ともなく呟いた一言が。
喫茶“MARY”の、総意の如く響き渡った。
■メアリーの にっき■
きょうも へんな おじちゃんが きてたよ。
じーっと めーちゃんを みてたの。
なんでだろうねって きいても みんな わかんないって。
ふしぎな おじちゃんだね。
でも みんなが ぴりぴりしてるのは こまるなぁ。
あしたもいいこと ありますように。
みんなが えがおで いてくれますように。




