3月30日
三月三十日。
今日は、珍妙な客が来ていた。
「…………」
「…………なにしてるんだろう、あのおじちゃん?」
「しっ。見ちゃ駄目よ」
珈琲を頼んで数時間。
じっと、メアリーを見続ける客がいたのだ。
ただただ、見つめ続ける大柄な男性に、流石のメアリーもそのおかしさに気付いた様だ。
「…………」
「良い? あのお客さんの相手は私がやるから、メアリーちゃんは相手しちゃ駄目よ?」
「はぁーい」
男性が来る少し前から、町田青年は空けている。
商店街の組合に、顔を出すことになっていたのだ。
なので夢見とメアリーが今日の店番をしているのだが、それ故に大柄な男を追い出すことは難しい。
迫力のある美人とはいえ、夢見も女性なのだ。
無理は禁物、触らぬ神に祟りなし、である。
「…………」
「あ、かえるのかな」
「……メアリーちゃんは此処にいてね、いい?」
「はーい」
かくれんぼ! と隠れるメアリーに微笑みながら、夢見は立ち上がった男性の為にレジスターの元へ向かう。
男性はよくよく見ればとても厳つい顔で、背の高い夢見よりも更に大きかった。
夢見は若干威圧されながらも、レジスターの後ろから、男を待ち受ける。
「…………」
「……珈琲一杯、二百円になります」
「…………」
「……二百円丁度、お預かりします」
男は無言で会計を済ませる。
真意を掴めないまま、男は退店してしまった。
最後に、ちら、とメアリーを見て。
「……なんだったのかしら」
「あのおじちゃん、もういないー?」
「いないわよー」
「はーい」
頭隠して尻を隠さないメアリーを見て、肩をすくめながら。
少し、危機感を憶える夢見であった。
■メアリーの にっき■
きょうは へんなおじちゃんが いたよ!
おじちゃんじゃなくて へんなおじちゃん!
おじちゃんより おっきくて こわいかおしてた!
で めーちゃんを じーっと みてるの!
へんなの!
にらめっこしたかったのかな?
よくわかんないね。
あしたもいいこと ありますように!




