3月27日
三月二十七日。
メイド(一人)喫茶と化した“MARY”は、今日も程々に、客で賑わっている。
「あらぁ、可愛いお洋服ねぇ」
「メアリーちゃん、メイドさんになったの?」
「そー! めーちゃん、メイドさん!」
くるくると回って見せれば、それに合わせてスカートもひらりひらりと舞う。
漆黒の花弁、といえば大人びて見えるが、本人であるメアリー・スーは天真爛漫さを隠せぬ幼女である。
ホワイトブリムの隅に縫われたクジラさんワッペンと、高級にも見えるブリティッシュメイド、そして人形の様な金髪碧眼は、高度なコンピュータでも再現し得ぬギャップを生み出していた。
つまり、すごく、かわいいのである。
それは余程偏見の目がなければ老若男女問うことはなく、幸いな事に歪んだレンズで物を見る輩は、この店に出入りしていなかった。
「こんな可愛いメイドさんなら、うちに欲しくなっちゃうわ」
「あら、メイドさんじゃなくてもウチは大歓迎よ?」
「ウチの息子と交換して欲しいくらいねぇ。ウチの息子なら、メアリーちゃんと一緒にいたがるかもしれないけど」
「ウチのもそうかもねぇ」
などと囃し立てるご婦人方に可愛がられながら、メアリーは懸命にお仕事をしている。
スカートを踏まない様にチョコチョコと動き回るその姿はとてもかわいらしい、が。
「申し訳ありませんが、奥様方」
「わっ!」
「あら」
くい、とその小さな背を、町田青年が持ち上げた。
猫のようにとはいかないまでも、軽々とメアリーを抱き上げると、彼は礼儀正しくお辞儀をする。
「そろそろ、彼女も御飯時ですので」
「あらぁ、そうだったの?」
「ごめんなさいね。お腹減ってたでしょう」
「ううん! だいじょうぶー」
笑いながらも、申し訳無さそうにする奥様方は、良識的な常連客である。
それを知っているからこそ、メアリーも町田青年も、好意的に受け取っていた。
ちょっとくらいご飯を我慢するのも、平気へっちゃらである。
とはいえ。
「そして重ね重ね申し訳ありませんが、メアリーさんはお渡し出来ません」
「あらぁ」
「えぇー。こんな可愛い子を店主さん家で独り占めなんて、ズルくないかしら?」
「いいえ。ズルくなどありません」
「ずるくないの? どーして?」
「簡単なことです」
「メアリーさんは、ウチのメアリーさんですから」
「……そっかぁ!」
「あらまぁ、妬けちゃうわ」
冗談程度に、メアリーを渡さないことは宣言しておく町田青年だった。
■メアリーの にっき■
きょうも めいどふくで おてつだいしたよ!
おばちゃんたちにも みーんな かわいいって いってもらえたー!
めいどふくめーちゃんは かわいい!
でもでも いちばん うれしかったのは おじちゃんが メアリーさんは うちのこですって いってくれたこと!
ぎゅーってしてもらって すっごく ぽかぽかした!
うれしいね!
あしたもいいこと ありますように!




