3月26日
三月二十六日。
馬子にも衣装、とはよく言うが、逸材に衣装を揃えると、誰しも思わず、顔が綻んでしまうものである。
「……おぉ」
「これは……すごいですね」
「えへへー……えへへへぇー……!」
彼女がくるくると回る度に、ふわふわの金と、滑らかな黒が踊る。
その顔は締まりない笑みを浮かべているが、身に纏う黒も白も、皺も埃も一つもなく、完璧に彼女を彩っていた。
「……メイドさんでっす!」
「カワイイ!」
「メアリーさん、こっち向いてください。……はい、チーズ」
「ちーず!」
そう、メイド服である。
それもヴィクトリアンメイド服の、五歳児用だ。
ピッタリとフィットしたメイド服に、メアリーだけでなく、誰も彼もがご満悦である。
「おじちゃん! せんせー!」
「はい」
「どーしたの?」
「えへへー……えっとね、えっとね」
もじもじ、と。
気恥ずかしげにした後、彼女は思いっきり、満面の笑みを浮かべる。
この笑顔だけで、このメイド服を作った職人達も浮かばれるというものだが。
「……ありがとーっ!」
この言葉は、功労者である彼らにあげるのも惜しくなってくる。
そう思う、二人であった。
■メアリーの にっき■
きょうはね めいどふくを もらったよ!!
まえに ちゅーもんした めいどふく! かわいくて きれい!
めーちゃん おにんぎょうさんみたいねって みんなに ほめてもらえた!
すーっごく うれしいね!
おなじの なんこか つくってもらったんだって!
おしごとで きたいとき きてもいいって!
とーっても うれしいなっ!
あしたもいいこと ありますように!




