3月23日
三月二十三日。
今日は、ちょっとしたハプニングがあった。
「……あっ!」
「おや」
「…………!」
甲高い悲鳴と共に、破砕音が鳴り響く。
床にはもう食べられないであろう程に潰れたケーキだったものと、ばらばらになったお皿だったものがあった。
配膳を任されたメアリーが、落としてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい……」
「ううん、大丈夫よ」
「怪我はありませんか、メアリーさん」
「……けーきが……」
呆然と見つめていたメアリーだったが、幸い手や足は怪我していない様子であった。
町田青年は落ち着いて、ケーキを待っていた女性客に頭を下げる。
「申し訳ありません。只今代わりをお持ちしますので、少々お待ち頂けますでしょうか」
「あ、はい」
「メアリーさん。破片には触らないでくださいね」
「う、うぅ……」
メアリーはくしゃ、と顔を歪めながらも、大きく頷く。
とはいえショックだった様で、ぽろぽろと涙を零していた。
町田青年は取り敢えずと新しいケーキを女性客に出して、手早く皿の欠片やケーキだったものを片付ける。
それらの作業を手際よく終わらせると、手に破片や汚れがないのを確認してから、町田青年はメアリーの頭をぽん、と撫でた。
「ごめんなさい……」
「はい。……失敗は誰にもあると思います。でも、気にし過ぎないように」
「?」
「何も出来なくなるのが、一番大変ですから」
ぽん、ぽん、と撫でられ、抱き上げられる。
その暖かさに埋もれながら、メアリーは溜まった涙を町田青年の肩で拭い。
「失敗しても構いません。頑張りましょう」
「……うんっ」
もっとがんばろう、と奮起するのであった。
■メアリーの にっき■
きょうはね おさらを わっちゃったよ。
ごめんなさいって いったら おきゃくさんも おじちゃんも だいじょうぶって いってくれたよ。
やさしいね。
おじちゃんは しっぱいしても いいって いってくれたよ。
がんばろうって。 だから めーちゃん もっと がんばるね。
あしたはいいこと ありますように。




