3月10日
三月十日。定休日である。
今日は三人揃って、秋葉原のとあるお店へと着ていた。
「いらっしゃいませー!」
「打ち合わせを希望した、町田と申します」
「はい、伺っております。どうぞ奥へ!」
そう、仕立て屋さんである。
それもコスプレなどの専門店だ。
ネットで見つけ、打診をかけてみたところ、その場で細かい採寸や打ち合わせをしてくれるということで、三人で赴いた次第である。
初めての秋葉原にも驚いていたが、この仕立て屋にも興味津々の様子で、メアリーはさっきから、キョロキョロと辺りを見回している。
「ねー、ここどこー?」
「仕立て屋さんです」
「したてやさん?」
「メアリーちゃんの、特別なお洋服を作るのよー」
「とくべつ!」
特別、という言葉に、堪らない魅力を覚えたのだろう。
メアリーが目を丸くして、町田青年や夢見の顔を見る。
そんな様子に微笑みながら、小さな応接室で待っていた係員が、椅子を引いた。
「どうぞ、おかけください」
「はい」
「ありがとうございます!」
「はい、良いお返事ですねー。お子さんですか?」
「えぇ、まぁ」
「そうですか。こんな可愛らしい子なら、着飾らせたくなるのも納得です」
曖昧な返事を訝しむことなく、係員もまた席に着く。
そうして幾つかの書類を並べながら、説明を始めた。
曰く、製作まで最低でも一週間かかること。
曰く、子供服なので布代は安上がりに纏まること。
曰く、出来上がり次第、郵送で届けること。
それらの説明と書面での契約を済ませ、三人は係員の持ってきた見本の写真を眺める。
「これが、めいどふく?」
「はい。ヒラヒラしたものは、フレンチメイドですが……」
「カワイイ方が良くないですか? フレンチメイドで良いんじゃないでしょうか」
「本格的なモノでも似合うかと思います。英国式ではどうでしょうか」
「ふれんち? えいこく?」
「フレンチなら此方、ブリティッシュなら此方ですね。どうです? お嬢様は、どちらが良いと思いますか?」
「んー……」
少し考え込んで、メアリーが指差す。
指差したのは、きっちりとした英国式のメイド服だ。
「これ!」
「おお」
「メアリーちゃん、いいの?」
「うんっ!」
勢い良く頷いたのは、きっと町田青年が勧めたが故だろう。
何となく気不味く思う町田青年だったが、メアリーの意思はこういう時だけ堅いのだ。
「畏まりました。では、完成次第お知らせ致しますので」
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします!」
メアリーがわくわく、と体中から発してみせる。
この顔が見たかったのだと、二人はそっと安堵した。
■メアリーの にっき■
きょうは したてやさんに いってきたよ!
あきはばらは いろんな ビルが いっぱい!
「しゃしんとっていいですか?」ってきかれたけど おじちゃんがダメっていったり おもしろいのだ!
したてやさんでは めいどふくを つくってくれるんだって!
めーちゃんは オトナな めいどふくを えらんだよ!
いっしゅうかんご たのしみだなっ!
あしたもいいこと ありますように!




