3月9日
三月九日。
メアリーは、困惑していた。
「……うー?」
「はーい、もうちょっとバンザイしてねー」
夢見が大学から早く返って来たと思った矢先、お手伝い中のメアリーを二階へ連れていったのだ。
そうするや否や、彼女は巻き尺を片手にメアリーを採寸し始めたのである。
「よし、オッケー。じゃぁ次は、背筋をぴーんと伸ばしてね」
「こ、こーぉ?」
「そうそう。じゃぁそのままで待っててねー」
「はーい……」
「……一〇〇センチピッタリかー」
メアリーの背丈を手早く測ると、夢見はサラサラと書き留める。
その様子に不安を覚えたメアリーは、おずおずと聞いた。
「……ねー、せんせー……」
「なーに?」
「めーちゃん、うられちゃうのー?」
「は?」
予測してなかった発言に、夢見は目を瞬かせる。
しかし、メアリーは至って真面目だ。
自分はもういらないのか、絵本に出てきた子牛の様に、売られてしまうのではないか。
そんな疑惑が、悲しみを生み、彼女の瞳にぽろぽろと雫を齎す。
「めーちゃん、もういらない? りさいくるしちゃう?」
「い、いやいや。する訳ないでしょ、そんなこと」
「ほんと……?」
「ホントホント。だって、メアリーちゃんは一人だけだもの」
泣きそうなメアリーを、夢見はしっかりと抱きしめる。
その耳元で、夢見はゆっくり、穏やかに告げた。
「どんな子でも、どんな人でも、メアリーちゃんの代わりはいないの」
「そうなの?」
「そうよ。だから、売ったり捨てたりなんて勿体無さ過ぎるわ」
ぽん、ぽん、と背中を擦りながら、夢見はそう笑ってみせる。
メアリーもそれにつられて、「よかったぁ」と安堵した。
しかし、ふと疑問が口から溢れる。
「でもでも、じゃぁなんではかってたのー?」
「んー、ナイショー」
「えー!?」
「明日になったらのオタノシミ。メアリーちゃんにとって良い事だから、安心して、ね?」
「むー」
疑問は解消されず、ぷく、と顔を膨らませるメアリー。
そんな彼女を、可笑しそうに夢見が笑えば。
「……えへへー」
メアリーもまた、楽しげに笑うのであった。
■メアリーの にっき■
きのうは めーちゃん とってもこわかった!
でも めーちゃん うられたり されないって!
こうしさんみたいに にばしゃに のらないって!
よかったぁ! とっても あんしん!
でもでも なんではかってたのかは わかんなかったよ!
なんでだろーね? あしたにはわかるのかな?
あしたは いいことありますように!




