3月7日
三月七日。
平日の午後からは、学生達がよくやって来る。
「いらっしゃーいっ!」
「オハヨ、メアリーちゃん!」
「おはよー!」
その大半が女性客なのは、恐らくメアリーがいるからこそだろう。
明るく朗らかに笑う彼女は、人懐こく、こども好きの女性にはウケが良い。
喫茶店の主である町田青年も、店の雰囲気も、大人しく、何処か居心地がいいのがあるのだろう。
思い思いに談笑して、お菓子や珈琲、紅茶を飲食して帰る。
そんなリピーターが、ここにはそれなりにいた。
「今日も可愛いねぇー。おねーさんのお膝、来るー?」
「うんっ!」
「あっ、いいないいなー、私もー」
「ダメダメ、これは常連の特権なんだから」
そんなリピーターを知ってか知らでか、メアリーはニコニコと彼女達に懐き、触れ合い、おもてなしする。
ちょっとしたペット感覚で子どもを愛でられる喫茶店、それが“MARY”の特徴となりつつあった。
「ねぇ、それ、他の人達にもやってるの?」
「うんっ。おじちゃんがいいよー、っていったら、おひざのっていいんだよー」
「ありゃ、結構ガード堅いんだ」
「まぁ、メイド喫茶とかじゃないもんねぇ」
「でも、メアリーちゃんのメイド姿はちょっと見てみたい」
「それは分かる」
口々に言い合う女性客達に、メアリーは首を傾げる。
……ちなみにメアリーの言う通り、町田青年はいつも柔和な瞳の奥から光を放っている。
不埒な思いで近づくと、この光が絶対零度となるのだ。
それをメアリーは分かっているからこそ、客を選ぶことが出来るのである。
「めーどってなーに?」
「えっとね、フリフリの洋服着た使用人さんだよー」
「フリフリのー?」
「そうそう。イギリス辺りだっけ? 可愛いんだよー」
「外人のメアリーちゃんなら、似合うかもね」
「へぇー……!」
感心するメアリーが、町田青年を見る。
目を輝かせて見つめるのは、「わたしもやってみたい!」という合図だ。
ただ、メアリーの丈でメイド服というのは中々あるものではないだろう。
「…………」
町田青年は少し、考え込んだ後。
「……はい」
「わぁいっ!」
重く、重く頷いた。
後で、夢見にどうすべきか相談することを決めながら。
■メアリーの にっき■
きょうは めーどの おはなししたよ!
めーどはね フリフリの かわいいおようふくきた めしつかいさん!
いろいろなことするんだって! おもしろそう!
やりたいなーって おもってたら おじちゃんが おようふく つくってくれるって!
いつできるかな? たのしみだなぁ!
あしたもいいこと ありますように!




