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3月4日


 三月四日。

 今日の町田青年は開店前、新しい挑戦をしていた。


「……ふむ」

「おー……」


 紅茶淹れである。

 今まで珈琲専門店の如く振舞っていたが、“MARY”はただの喫茶店である。

 然るに、飲み物の選択肢を増やすのは急務であった。


「ティーバックしゃぶしゃぶじゃダメなの?」

「ダメです」

「どーしてー?」

「それは、本物の淹れ方ではないそうです。外道だと」

「げどー?」

「よくないこと、です」


 そう言いながら、町田青年は火をかけていたヤカンを手に取る。

 見かけによらず厚い皮をした手のひらは、熱いヤカンを恐れることなく持ち上げ、事前に温め、二人分の茶葉を入れたポットに湯を注いだ。

 勢い良く、迷いなく。湯を注ぎきったことを確認すると、彼はすぐに蓋を閉める。


「これで、三分待ちます」

「ろくじゅーびょうがみっつ!」

「はい。よく計算出来ましたね」

「えへへー」


 指折り、口で数えて待つこと三分。

 充分に蒸らしきったのを確認してから、スプーンで中身を軽く混ぜる。

 そうして、茶殻をこした後、町田青年はポットをサッと高く持ち上げた。


「ふんっ」

「おおー!!」


 珍しく気合い混じりに回し注げば、紅茶は溢れることなく、カップへと吸い込まれていく。

 その様に、メアリーは感服しきった様に目を輝かせ、次いでぱちぱちと手を叩いた。


「かっこいいー!」

「そうですか?」

「うんっ! なんかね、せんせーみたいにかっこよかったっ!」

「夢美さんみたいに、ですか」

「うんっ!」

「それは……嬉しいですね」


 素直にはにかむ町田青年は、手元に置いていたメモ書きを改めて手に取る。

 それは昨日夢見に、紅茶の淹れ方について書いて貰ったものであった。

 昔はよく淹れて貰っていたので、その記憶も頼りに淹れてみたのだが、中々どうして様になっていたようだ。


「夢見さんに、淹れてあげたいですね」

「うんっ!」


 そう言い合いながら、町田青年とメアリーは夢見の帰りを待つ。

 帰ってきた夢見が、物凄く複雑そうな顔で褒めてくれたのは、町田青年の誤算であった。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは おじちゃんが こうちゃを いれてたよ!

 あさ れんしゅうして ひるから だしてみたの!

 おじーちゃんが ちゅうもんしたけど 「うまい」って ほめてくれてたよ!

 よかったね おじちゃん!


 でも ゆめみせんせーは なんかね、びみょーなかおしてた。

 でもでも 「すごいです」って ほめてたの。 なんでだろー?

 わかんないけど おじちゃんが ゆめみせんせーを おげんきにしてくれると うれしいなって めーちゃんおもいます。


 ふたりが なかよくしてくれれば いいな。

 あしたもいいこと ありますように。

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