2月25日
二月二十五日。
今日は定休日。町田青年は店内で、彫り物をしていた。
「……ねーねー、なにつくってるのー?」
「薬入れです」
「おくすりー?」
「はい」
駅の量販店で買った木の小箱を削ったり、ヤスリと紙ヤスリを使うことで角を丸く仕上げる。
手のひらサイズのそれの側面に、彼は黙々と模様を描く。
鉛筆で描かれたそれは、謂わば下書き。鉛筆の線に沿って、彫りを行うのだ。
「……邪魔しない様に見てようね、メアリーちゃん」
「はぁーい!」
「先輩、飲み物はいりますか?」
「えぇと、では……紅茶をお願いできますか」
「はいはーい♪」
手作業をしながら、町田青年は夢見に紅茶を頼む。
夢見は嬉しそうに戸棚から茶葉を取り出し、鉄のヤカンでお湯を沸かす。
「せんせー、こうちゃって?」
「外国のお飲み物よー。先輩、紅茶も好きなの」
「おじちゃんが? こーひーじゃないのに?」
「先輩はね、モノ作りとか、絵を書いてる時は紅茶が飲みたくなるのよ」
「へぇー……!」
そんなやり取りを耳にしながら、町田青年は彫り作業に没頭する。
緻密な力加減が求められる作業は、町田青年の好みだ。
時々、紅茶を飲む為に集中力を緩めては、作業に集中し直す。
そんな彼を、夢見とメアリーはボードゲームに勤しみながら、ずっと見守っていた。
やがて、町田青年が肩を回しながら、顔を上げる。
「メアリーさん」
「はーい?」
「これ、どうでしょう」
「……おー!?」
町田青年がメアリーに手渡したのは、木彫の印籠であった。
螺鈿や蒔絵ではないが……その紋所は、一昨日メアリーが考えた、チューリップの紋所である。
「もんどころ!」
「はい。作ってみました」
「おぉー……おぉぉー……!!」
目を輝かせるメアリーは、チューリップの紋所を掲げると。
「……ひかえおろー!」
と叫ぶ。
町田青年と夢見は、可笑しそうに顔を見合わせて。
「「ははぁー!」」
と、わざとらしく頭を下げるのであった。
■メアリーの にっき■
きょうは おじちゃんが いんろうを つくってくれたよ!
チューリップの もんどころが かいてある かわいい いんろう!
まっくろじゃないけど きんぴかでもないけど かわいい!
いろづけは また やってくれるって! うれしいな!
めーちゃん これは なくさないように ひもでつけて もっておきます!
わるいひとには もんどころを かかげるのだ!
とっても うれしい! おじちゃん ありがとー!
あしたもいいこと ありますように!




