表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/326

2月23日


 二月二十三日。

 今日のメアリーは、お絵かきをしていた。


「ふーんふーふーふっふーふーふーふーふふっふーふー!」

「何を書いてるのですか」

「えへへー! ちょっとまってねー?」

「はい」


 普段の仕事で暇な時、メアリーは小さな椅子と机を広げ、そこでお絵かきなどをしている。

 その様を客は時に微笑ましく見守り、時に話しかけたりするのだ。

 そんなメアリーの挙動そのものが、この喫茶店“MARY”の見どころにもなっている。


「……できたっ!」

「ほう」

「おじちゃん、おじちゃんっ。みてみてーっ!」

「はい」


 町田青年が皿拭きを終えた頃、メアリーが満足気に彼の裾を引っ張る。

 むふー、と聞こえんばかりに鼻息を荒くしている彼女と同じ目線になるように、町田青年は腰を下ろした。


「どーぉ? どーぉ?」

「ほう……」


 メアリーが書いていたのは、何かのマークらしき物であった。

 チューリップの花びらめいたマークが三つ、お尻を合わせて纏まっている。

 ノリと勢いで書いたもの、といえばそれまでだが、それが彼女の期待する感想ではないだろう。

 町田青年は暫し考えて、自分がどう答えるべきか考える。

 やがて、一つの案に思い至り、彼はそれを採用した。


「可愛らしい、マークですね」

「でしょー! めーちゃんの、もんどころだよっ!」

「ほう」

「ひかえおろー!」

「ははぁ」


 突き出されたマークに、町田青年は頭を下げる。

 満足そうにいい子いい子と撫でられたので、彼はもう一度「ははぁ」と答えた。


「でも、メアリーさん」

「なーに?」

「紋所は、ここぞという時以外は、出してはいけないんですよ」

「そうなの?」

「はい」

「そっかぁー」


 「じゃぁ、気をつけるね!」と、彼女は明るく微笑む。

 そんな彼女の笑顔を見て、町田青年はそっと、チューリップの紋所を記憶に刻んでおくのであった。



 ■メアリーの にっき■


 きょうは もんどころを かいたよ!

 めーちゃんだけの かわいい もんどころ!

 おじちゃんも ほめてくれたよ!

 ひかえおろー! ははー! おもしろいね!


 でも だいじなときいがいは みせちゃ ダメなので

 めーちゃんは だいじに しまうことに しました!

 おやくそく まもるよ!


 でも もんどころを みせたら おじちゃんが ぶつぶついってたのが ちょっときになる。

 おじちゃんは なやみごとがあると ぶつぶついうんだ。

 こわくないけど ちょっとだけ しんぱいかも。


 でも あしたになったら たぶんげんきになってるとおもう!

 そうだといいな!

 あしたもいいこと ありますように!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ