2月20日
QSK
4時間18分の遅刻をお詫び申し上げます。
二月二十日。
今日は町田青年と夢見が、それぞれ向き合いながら睨み合っていた。
「……では」
「はい、先輩」
緊張感を走らせながら、二人が頷く。
はらはらしながら見守るメアリーを余所に、戦いの火蓋が切って落とされた。
「――これより第一回、家族会議を開始します」
「ワーワードンドンパフパフー!!」
「えー」
……そう、喧嘩ではない。家族会議である。
卓袱台を挟み、ずっこけたメアリーを町田青年の膝上に乗せ、二人は粛々と会議を始める。
「では、今回の議題ですが」
「……テレビ、ですか」
「はい。夢見さんが提案した、テレビ購入の是非です」
「てれび?」
そう言うなり、町田青年はチラシをメアリーに見せる。
そこには「大特価」と書かれた薄型液晶テレビの情報があり、見る者を魅了させるべく労を尽くしていた。
……だが、町田青年はそのチラシに冷たい眼差しを向けるだけで、特に何か褒めることはしなかった。
「自分は、テレビ購入に反対です」
「……どうしてー?」
「あまり、良い番組が多くないからです。ニュースや教育番組は良いですが、暴力的な番組で、メアリーさんを悲しませたり、怖がらせるのは良くないでしょう」
町田青年が反対する理由。それは、純然たる憂いであった。
彼とて、テレビが嫌いな訳ではない。
過激な番組を見ることで、メアリーに悪影響が及ぶことを危惧しているだけなのだ。
白いカンバスに絵の具を塗れば、もう二度と戻らないことを、町田青年は知っているのだ。
「異議あり!」
「どうぞ」
その憂いに、まっすぐ返すのは夢見である。
彼女は新聞の番組表と、独自に作り上げたオススメ番組のプリントを手に、朗々と語った。
「確かに過激な番組もテレビにはあります! でも、それだけではありません!」
「ほう。教育番組以外に何かあるとでも」
「女の子向けのアニメですっ!」
「……っ!?」
堅牢な砦を崩す大砲の如く、凄まじい勢いで夢見の言葉が飛ぶ。
痛い腹を突かれた町田青年は、苦々しく顔を歪める。
意図的に言及しなかった物を、目敏く見つけられたのだ。そしてその意図に気付かない夢見ではない。
「男の子向けのアニメは過激かもしれませんが、女の子向けのアニメは違います! 可愛いもの、綺麗なもの、美しいものに溢れています! 先輩の求める条件にピッタリの筈です!」
「し、しかし最近は、女の子が暴力を振るうアニメもあると聞きます。それを見てしまう場合もあるのでは?」
「問題ありません! そういった物は、事前にチェックして見ないようすればいい話です!」
「ぐ、ぐぅ……!」
どんどん追い詰められる町田青年は、悔しげに歯噛みする。
一度勢いがついた夢見は、例え町田青年でも止め難い物がある。
あっという間に劣勢に追い込まれた町田青年は、僅かな可能性に賭けた。
「め、メアリーさん……」
「……なーに?」
「て、テレビ……見たい、ですか?」
「んー……」
そう、メアリーである。
彼女が一言“いらない”とさえ言えば、この論戦は町田青年の優勢に傾くのだ。
心の中で祈りながら、町田青年はメアリーの言葉を待つ。
だが……。
「……ちょっと、みてみたいかも!」
「だよねだよねっ! 魔法少女モノとか見てみたいよねーっ!」
「うんーっ!」
……無情にも、その期待は打ち砕かれた。
膝上の幼女は夢見に抱き上げられ、その胸に押し付けられて笑っている。
これで夢見との論戦は、百戦一勝九十九敗。
町田青年の、ボロ負けであった。
■メアリーの にっき■
きょうは おじちゃんと ゆめみせんせーが よる ずーっと おはなししてたよ!
けんかじゃなくて おはなしなんだって! よかった!
おはなしは テレビを かうか かわないかだって。
めーちゃん テレビ ちょっと みてみたいなって いったら テレビ かってくれることに なったよ!
うれしいけど おじちゃん だいじょうぶかな?
めいわくとか かけてないと いいな。
あしたは ゆめみせんせーと テレビを かいにいくんだ!
あしたもいいこと ありますように!




