表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/326

2月19日


 二月十九日。

 今日は大量の人形達が、喫茶“MARY”のカウンターを占拠していた。


「……まぁ、可愛い!」

「なるべく、リクエスト通りになる様に努力させて頂きましたが……如何でしょうか」

「えぇ、確かに注文通り!」

「ううん、注文したものよりもっと素敵よ!」

「それは、光栄です」


 その人形達を見て、ご婦人達が口々に褒め称える。

 そう、先週の頃だろうか。彼女達は町田青年が作ったぬいぐるみを気に入り、いくつかの人形を注文していたのだ。


 その結果が、人形によるカウンター占拠である。

 思った以上に制作に手間を取られ、また思った以上に嵩張ったことから、この称賛にホッと胸を撫で下ろした。

 これで気に入られず返品となれば、堪ったものではないからである。


「またお願いしてもいいかしら?」

「そうねぇ、次は娘用に一つ欲しいかしら」

「……えぇと、少しお駄賃とお時間を頂きますが」

「勿論!」

「是非!」

「……そうですか」


 ……とはいえ、好評故に、次の注文からは逃げきれず。

 若干、本当に若干だけ顔を引き攣らせながら、町田青年は注文のメモを取るのだった。


「……オトナのひとも、おにんぎょうさん、すきなのー?」

「えぇ、大好きよ?」

「私達だって、昔はメアリーちゃんと同じくらいの女の子だったものねぇ」

「メアリーちゃん程可愛くはなかったかも」

「あぁ、それはそうね!」

「そーなんだ……」


 ころころと笑う婦人達に、感心する様にメアリーが呟く。

 彼女は何かを思案すると、くいくいと町田青年の袖を引いた。


「どうかしましたか」

「んっとね、あのね」

「はい」


 もじもじ、おずおず。

 口内で言葉を弄ぶ今の彼女には、そんな音が似合うだろう。

 町田青年が辛抱強く待っていると、彼女は更に言葉を続けた。


「めーちゃん、おじちゃんがいそがしいの、わかってるんだけどね」

「はい」

「ヤだったら、イヤって、いっていいんだけどね」

「は……いえ、続けてください」

「うん。あのね……」


 そうして彼女は、カウンターの人形を手に取って、申し訳なさそうに言った。


「……めーちゃんも、おにんぎょうさん、ほしいの」

「はい。わかりました」

「……えっ?」


 町田青年は、力強く頷いた。

 余りのちょろさ……呆気なさに、メアリーの方が驚いてしまう。


「い、いいの?」

「はい」

「わがままじゃない?」

「はい」

「いそがしく、でしょ?」

「問題ありません」


 矢継ぎ早に繰り出される質問を、町田青年は真顔で返す。

 そうして、ぽん、とメアリーの頭に、手を添えた。


「……メアリーさんは、お手伝いしてくださいますから。大丈夫です」

「……うんっ!」


 そんな言葉を受けて、メアリーが撫でる手を、愛おしげに両手で抱える様を。

 ご婦人達は、とても微笑ましく眺めていた。




 ■メアリーの にっき■


 きょうは おばちゃんたちが おにんぎょうさんを うけとりにきたよ!

 おんなのひとは いつだって おにんぎょうさんが だいすきなんだって!

 めーちゃんも おにんぎょう だいすきだから ホントのことだね!


 だからね めーちゃんね おにんぎょうさんほしいなって おねがいしたの!

 わがままかな いそがしくないかなって おもったんだけど

 おじちゃん つくってくれるって いってたよ! うれしい!


 いつできるか たのしみだね! あしたかな あさってかな しあさってかな?

 あしたもいいこと ありますように!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ