2月19日
二月十九日。
今日は大量の人形達が、喫茶“MARY”のカウンターを占拠していた。
「……まぁ、可愛い!」
「なるべく、リクエスト通りになる様に努力させて頂きましたが……如何でしょうか」
「えぇ、確かに注文通り!」
「ううん、注文したものよりもっと素敵よ!」
「それは、光栄です」
その人形達を見て、ご婦人達が口々に褒め称える。
そう、先週の頃だろうか。彼女達は町田青年が作ったぬいぐるみを気に入り、いくつかの人形を注文していたのだ。
その結果が、人形によるカウンター占拠である。
思った以上に制作に手間を取られ、また思った以上に嵩張ったことから、この称賛にホッと胸を撫で下ろした。
これで気に入られず返品となれば、堪ったものではないからである。
「またお願いしてもいいかしら?」
「そうねぇ、次は娘用に一つ欲しいかしら」
「……えぇと、少しお駄賃とお時間を頂きますが」
「勿論!」
「是非!」
「……そうですか」
……とはいえ、好評故に、次の注文からは逃げきれず。
若干、本当に若干だけ顔を引き攣らせながら、町田青年は注文のメモを取るのだった。
「……オトナのひとも、おにんぎょうさん、すきなのー?」
「えぇ、大好きよ?」
「私達だって、昔はメアリーちゃんと同じくらいの女の子だったものねぇ」
「メアリーちゃん程可愛くはなかったかも」
「あぁ、それはそうね!」
「そーなんだ……」
ころころと笑う婦人達に、感心する様にメアリーが呟く。
彼女は何かを思案すると、くいくいと町田青年の袖を引いた。
「どうかしましたか」
「んっとね、あのね」
「はい」
もじもじ、おずおず。
口内で言葉を弄ぶ今の彼女には、そんな音が似合うだろう。
町田青年が辛抱強く待っていると、彼女は更に言葉を続けた。
「めーちゃん、おじちゃんがいそがしいの、わかってるんだけどね」
「はい」
「ヤだったら、イヤって、いっていいんだけどね」
「は……いえ、続けてください」
「うん。あのね……」
そうして彼女は、カウンターの人形を手に取って、申し訳なさそうに言った。
「……めーちゃんも、おにんぎょうさん、ほしいの」
「はい。わかりました」
「……えっ?」
町田青年は、力強く頷いた。
余りのちょろさ……呆気なさに、メアリーの方が驚いてしまう。
「い、いいの?」
「はい」
「わがままじゃない?」
「はい」
「いそがしく、でしょ?」
「問題ありません」
矢継ぎ早に繰り出される質問を、町田青年は真顔で返す。
そうして、ぽん、とメアリーの頭に、手を添えた。
「……メアリーさんは、お手伝いしてくださいますから。大丈夫です」
「……うんっ!」
そんな言葉を受けて、メアリーが撫でる手を、愛おしげに両手で抱える様を。
ご婦人達は、とても微笑ましく眺めていた。
■メアリーの にっき■
きょうは おばちゃんたちが おにんぎょうさんを うけとりにきたよ!
おんなのひとは いつだって おにんぎょうさんが だいすきなんだって!
めーちゃんも おにんぎょう だいすきだから ホントのことだね!
だからね めーちゃんね おにんぎょうさんほしいなって おねがいしたの!
わがままかな いそがしくないかなって おもったんだけど
おじちゃん つくってくれるって いってたよ! うれしい!
いつできるか たのしみだね! あしたかな あさってかな しあさってかな?
あしたもいいこと ありますように!




