2月18日
二月十八日。
メアリーは化粧台の前で、ちょこんと座っていた。
「じゃ、メイクの練習、しよっか」
「おねがいしまーす!」
「はーい。お願いされまーす」
その後ろで、彼女の小さな肩を撫でながら、夢見がにっこりと微笑む。
彼女の手には、昨日メアリーが使い倒した化粧道具の数々があった。
「いい? お化粧もお料理と同じなの」
「おりょーりと?」
「そう。お料理は野菜を洗って、皮を剥いて切ったりとか、煮たりするよね?」
「うん。めーちゃんもよくかわむきするー」
「ねー。それと同じで、お化粧も手順が大事なの」
夢見の言葉に、メアリーが想像を働かせる。
……一体どの様な光景が出て来たのか、彼女は顔を青褪めさせ、がたがたと震えてしまった。
「……め、めーちゃんもかわむき、するー?」
「え? しないけど?」
「そ、そっかー」
きょとん、として言われた夢見の言葉に、メアリーはホッと息を吐く。
その発想にクスクスと笑いながら、夢見は化粧下地を手に取った。
「まずは下地作りね。はい、これをお顔にぬりぬりしてー?」
「くりーむ?」
「食べちゃダメよ。目とかにも入らない様に、満遍なく塗るの」
「はーい! ぬりぬりー、ぬりぬりー……」
そう唱えながら、メアリーはクリームタイプの化粧下地を顔に塗りたくる。
下地が厚すぎるところは、適度に夢見が掬って整えることで、特に時間もかからずに塗り終えた。
少しだけ、クリームが肌に浸透するのを待つと、夢見はファンデーションを取り出す。
「メアリーちゃんは顔もお肌も綺麗だから、コントロールカラーもコンシーラーもいらないかな」
「こん? なにそれー?」
「肌の赤みを消したり、お肌整えたりするヤツ。でもメアリーちゃんが元々綺麗だから使いませんっ!」
「えへへー……!」
「お次はファンデーション! 顔、動かさないでね」
「むんっ!」
む、と表情を固めたメアリーを見て、夢見はまたクスクスと笑いながら、ファンデーションのスポンジを、メアリーの柔肌に転がした。
「えへへっ、くすぐったーい!」
「ほら、我慢我慢」
「えへへーっ!」
顔の筋肉にそってスポンジを這わせれば、メアリーの白い肌はたちまち輝いて見える。
元々白く美しい肌が、雪の様に白んでいくのだ。
そこに夢見は少しだけ、色の薄い口紅を添えてやる。
「……はい、出来た!」
「おーっ!」
……そこには、お伽話お姫様の様に、白く美しいメアリーの顔があった。
彼女が少し微笑めば、鏡の向こうの人形姫もまた、小さく微笑んでみせる。
「……かわいい?」
「うん、メアリーちゃんは元々可愛いから、もっと可愛くなったわねー」
「……めーちゃん、かわいい!」
満面の笑みを浮かべれば、その人形姫はお伽噺の住人となるだろう。
彼女は元気良く椅子から降りて、一番見せたい人に駈け出した。
「おーじーちゃーんっ! めーちゃん! めーちゃんかわいくなったー!」
「……ふふふっ」
そんな彼女に、負けられないなと笑みを溢し。
お手本を見せるべく、夢見も久しぶりに化粧台に立った。
■メアリーの にっき■
きょうは めーちゃん おけしょーをしたよ!
ゆめみせんせーに おそわって おけしょーしたの!
おけしょーは おりょーりとおなじ! じゅんびと てじゅんが だいじ!
めーちゃん おぼえました!
おけしょーで めーちゃん おにんぎょうさんみたいになったよ!
おじちゃんが きれいだねって ほめてくれたの!
とってもうれしかった! おじちゃん だいすき!
でもね でもね そのあとで ゆめみせんせーも おけしょーしたの!
ゆめみせんせー もともとびじんなのに すっごいびじんになってた!
ちょっと ずるいね!
でも めーちゃんも いつか ゆめみせんせーくらいの びじんになるんだ!
そのために けしょーすいも ちゃんとぬるよ!
あしたもいいこと ありますように!




