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2月17日


 二月十七日。

 今日のメアリーは、直視に耐えない顔をしていた。


「……っ…………っ」

「ねーね、どーかなー?」

「……どっ、どうでしょう」

「どーだろー?」

「どうでしょう……っ」


 町田青年は、顔を逸らして必死に耐える。

 いつも通りの仕事をしていて、ほんの少しだけ目を離したら、彼女はとてつもない変貌を遂げていた。

 その失態に彼は自分を罵倒しながら、ちらとメアリーを見て、口元を抑えた。

 漏れ出そうな何かを必死で堪えながら、メアリーの顔を伺う。


「すごい?」

「凄いです……」

「オトナなかんじ?」

「ど、どうでしょう……?」

「……むぅ」


 ぷぅ、とメアリーの頬が膨らみ、そうして彼女の裂けた様に真っ赤な唇が、更に引き延ばされた。

 顔面を蒼白どころか、一切の血の気も伺えぬ程に白く染め、歪な笑みを浮かべる彼女は、自身の指より太くなった眉を蠢かす。

 そうして、手鏡を見つめると……。


「……おけしょう、バッチリでしょ!?」

「そ、そうですね……っ」

「むむむーっ」


 ……自身の下手くそな化粧を、もっと褒め称える様に要求した。

 町田青年は息苦しそうに、そして可笑しさを抑え込む様に、ただただ蹲るばかりであった。


「……オトナのひとって、おけしょーするんでしょ?」

「え、えぇ。……ゆ、夢見さんも、大学に行く時は、必ず」

「だよね! だからめーちゃんも、おけしょーしてみたの!」

「そっ、そうですか」

「そうなの!」


 ファンデーションや口紅、マスカラをふんだんに使い尽くして、ドヤ顔を決めるメアリー。

 しかしその顔はまるで出来そこないのピエロの様で、似合う似合わないどころの話ではなかった。

 下手くそ。それ以上の言葉を捻りだすのは、流石の町田青年でも難しい。


 さりとて、笑う訳にもいかないだろう。そう町田青年は気を引き締める。

 これはメアリーなりに真剣に頑張った結果であり、決してその努力を笑ってはいけないのだ。

 ここは少し褒め、改善点を指摘することで向上を図る。

 メイクの知識は無いにせよ、美術の知識はある。まずは全体的なバランスというものを……と、町田青年が思索を極めたところで。


「……ぶ、ぷふぅっ!?」

「!?」

「な、何その顔……! ぷ、あははははははっ!」

「!?」


 ……帰宅早々、思い切り笑い倒す、無情な乙女が一人いた。

 その後、ショックを受けたメアリーを宥めるのに、小一時間はかかったという。


 ■メアリーの にっき■


 きょうはね オトナのひとになるために おけしょーをしたんだよ。

 でもね なんかね うまくいかなかったみたい。


 おじちゃんは ずっと へんなかおだったし ゆめみせんせーには いっぱい わらわれちゃった。

 ちょっと めーちゃん いじけちゃったけど めーちゃん あきらめないよ。

 あした ゆめみせんせーに おけしょーを おしえてもらうのだ!

 おとなのじょせーに なっちゃうもん!


 とりあえず けしょーすいっていう おみずを ゆめみせんせーと ねるまえに つけるよ!

 あしたは うまく いきますように!


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