2月13日
ヤキモチは大人のお味
二月十三日。
この日は、思いがけないことの切欠であった。
「……それ、売り物ですか?」
「えっ」
昨日から手芸にハマったのか、折を見ては小さなぬいぐるみを作っていた町田青年。
そんな彼に話しかけたのは、女子会(例え年齢に見合わずとも、女子は女子なのだ)に勤しんでいたご婦人の一人である。
彼女の言葉を皮切りに、ご婦人達は興味深げに、カウンターに並ぶ数々のちびぐるみ達を眺めていた。
「あらぁ、これ店主さんがお一人で?」
「は、はい」
「え! すごぉーい!」
「喫茶店にぬいぐるみ作りなんて、多芸ねぇ」
「そ、そうですか」
褒められたことに対して慣れていない町田青年は、(外見ではわかりにくいが)照れ臭そうに頭を掻く。
それを夢見が面白くなさそうに見つめているが、相手は伴侶のいるご婦人である。間違いなど起こりようもないだろう。
その事実を知ってか知らでか、メアリーは自分のことでもないのに、誇らしげに小さな胸を張っていた。
「おじちゃんはねー! おえかきもできるし、ちょーこくもできるんだよーっ!」
「まぁ、彫刻!」
「美大生さんだったのかしら? 内装もオシャレだし、流石ねぇ」
「いえ、その……」
内装は据え置きだったものであり、町田青年や夢見が通っていた大学は極普通の三流大である。
その事実を指摘するかしまいか。町田青年が夢見に助けを求めると、彼女はぷいとそっぽを向いてしまった。
「ねぇ、此方のぬいぐるみと、同じものは作れるかしら?」
「え、えぇ、まぁ」
「お金は出すから、子供用に一つお願い出来ないかしら?」
「えっ」
「あ、私もお願いします!」
「えぇっ」
「私も!」
「えぇ……」
おろおろと、町田青年は目を動かす。
暫くして、彼は絞り出す様に。
「……ゆ、夢見さん」
と、助けを求めるのだった。
それを受け、ゆっくりとため息をついた夢見は。
「……取り敢えず一人一個、完全予約制でいいんじゃないですか」
「はい……」
そっと、助け舟を出すのであった。
尚、この後町田青年は、夜なべしてぬいぐるみを作ることになったという。
■メアリーの にっき■
きょうはね おじちゃんがね すっごくほめられてたよ!
おばちゃんたちに ぬいぐるみさん つくるの うまいねーって!
おばちゃんたちにも つくってほしいって いってた!
ゆめみせんせーが きまりごと つくって おじちゃんが わかりやすいように してくれたよ!
よかったね おじちゃん!
……でもなんで せんせー ちょっと むすーってしてたんだろうね?
ま いっか!
あしたもいいこと ありますように!




