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2月12日


 二月十二日。

 今日の町田青年は、ちくちくしていた。


「……」

「何作ってるんだろう?」

「ナイショだってー」

「そっかぁ……」


 ちくちく、ちくちくしていた。

 そう、針仕事である。


「朝からやってる?」

「うん。ちくちくしてるー」

「そりゃ長い作業ね……」


 勿論、仕事の手を抜いている訳ではない。

 調理や清掃が終わると、徐に針仕事を始めるのだ。


 ちくちく、ちくちく。

 男性らしからぬ所作であるが、それはとても様になっている。

 どうやら彼は、その手の作業に大きな適性があるようだった。


「……集中してるねぇ」

「しゅーちゅ?」

「えーっと、一つのことをずーっと頑張れることかな」

「あー! ……うんっ。しゅーちゅーしてる」

「集中」

「しゅーちゅー?」

「ちゅう」

「ちゅー」


 口を突き出す二人だが、その微笑ましい様を町田青年が見る事は無かった。

 なんだかちょっと寂しい。そんな感情を抱きながら、メアリーと夢見は何とはなしに溜息をつく。


「……はやくおわんないかな」

「ねぇー」


 同じ喋らない状態でも、せめて自分達を見ていて欲しい。

 そう思わないでもない二人であった。


***


「……出来たっ」

「んぅ?」

「おお?」


 閉店直前、漸く町田青年は声を上げる。

 なんだなんだと二人が近寄ってみると、町田青年は少し嬉しそうに見せてくれた。


「どうぞ」

「おぉ、これは……」

「……イルカさんだぁーっ!」


 彼の手にあるのは、メアリーの頭程はある、可愛らしいイルカのぬいぐるみであった。

 メアリーは少しでも近くで見ようと、ぴょんぴょん跳ね回る。

 そんな彼女を町田青年は膝に乗せ、その手にぬいぐるみを差し出した。


「あげます」

「……いいのっ!?」

「はい」

「わぁーいっ!」

「おぉー。よかったね、メアリーちゃん?」

「うんっ!」


 メアリーはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

 そうして、町田青年の顔を覗きこむと、彼女は太陽の如き笑みを浮かべた。


「おじちゃんっ、おじちゃんっ!」

「はい」

「ありがとーっ!」

「……はい」


 眩しい笑みを向けるメアリーを、町田青年は愛おしげに撫でる。

 そんな二人を微笑ましく思いながら、夢見はくすくすと笑うのだった。



 ■メアリーの にっき■


 きょうは おじちゃんが イルカさんを くれたよ!

 ぬいぐるみの かわいくて おっきな イルカさん!

 おじちゃんが いちにち ちくちくして つくってくれたの!


 めーちゃん くじらさん だいすき! でも イルカさんも だいすき!

 でもね めーちゃんがいちばん だいすきなのは おじちゃんなんだ!

 にばんめが ゆめみせんせー! ふたりとも だーいすき!


 だいすきが いっぱいだと しあわせなんだって!

 おこさまランチみたいだね!


 きょうもとっても いいひでした!

 あしたもいいこと ありますように!


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