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2月7日


 二月七日。

 この日は、大きな一歩を踏み出した日だ。

 

「……よし」


 人々の見守る中、町田青年はそっと扉に物をかける。

 それは小さいながらも彫刻細工の整った、看板であった。

 眠れない夜を過ごした町田青年が、一晩で作り上げたものである。


 可愛らしい少女が象られたそれを飾り、彼は宣言する。


「……お待たせしました。喫茶“MARY”、只今より開店致します」


 拍手と共に、人々が喫茶店“MARY”の中に入っていく。

 今日は開店当日。町田青年が大きな一歩を踏み出した日であった。


***


「……いやぁ、開店おめっス!」

「はい。ありがとうございます」


 コーヒー豆を届けに来たスラッシャー上三が、町田青年と固く手を結ぶ。

 店内には夢見が呼んだ学生達や、チラシを見た人達が着席している。

 事前に席を増やしてはいたが、それにしても満員御礼であった。


「ごちゅーもんはなんですか!」

「えっと、じゃぁこのチョコケーキとコーヒーで」

「ありがとーございます! チョコケーキはとーってもあまあまだからねっ! まっててねっ!」

「うん、ありがとうねー」

「えへへー!」


 注文を取るのは、メアリーのお仕事だ。

 彼女は各メニューのチェックリストを埋めて、厨房へと持って行く。

 これなら彼女の筆捌きも関係ないし、時間の短縮にもなる。

 ただ、チェックリスト自体を刷る時間がいるので、今度プリンターを買おうと思う町田青年であった。


「ねー、ユメちゃん! 何あのちっちゃい子! 超可愛いんだけどー!?」

「メアリーちゃんはねぇ」

「メアリーちゃんは!?」

「メアリーちゃんなのよ」

「なにそれー!?」


 エプロンと三角巾を纏うメアリーは、可愛い物好きな女性客の目を引くらしい。

 そうでなくとも、人懐こい彼女は年配の客も気を惹くらしく、あちこちで撫でられ褒められ可愛がられていた。

 そして、男性客は――。


「はーい、ご注文のチャーハンになりまーす!」

「あ、お姉さん! えっと……」

「はい、追加ご注文ですかー?」

「……あ、はい。追加でチーズケーキを……」

「はいっ! ありがとうございますー!」

「……ははは」


 ――殆どが夢見に釘付けであった。

 まぁ、夢見のエプロンの下からでも分かる驚異的な胸囲と、括れた腰、清純なロングスカートに覆われた臀部の前に、注目するなというのは酷な話である。

 一部、メアリーに熱い視線を送る男性客もいたが……まぁ、頭を撫でる以上の手出しはしてこないだろう。


 魅力的な店員達に加え、丁寧な味付けの料理と珈琲。

 特色はメアリーくらいしかいないのだが……モダンな装いは不思議と、客達の気を惹いていった。


「……順調そうっスねぇ!」

「はい。お蔭様で」

「いやいや! ウチは豆だけッスから! ……でも、これからもよろしくッスわ!」

「はい。今後共、お互いご贔屓に」


 にこり、と笑顔を向ける町田青年。

 その手は閉店まで一時も休まず、働き続けた。

 喫茶店“MARY”は、極めて順風満帆な出だしを迎えた。



 ■メアリーの にっき■


 きょうは きっさてん かいてんです!

 きっさてんの おなまえ めーちゃんと おなじになったよ!

 「メアリーさんのおかげでできたおみせだから」だって! うれしい!


 めーちゃんは おきゃくさんの せっきゃくをしたよ!

 いろんなひとに なでてもらえた! あめちゃんも もらえたよ!

 またくるって いろんなひとが いってた! またきてね!


 がんばった ごほうびに おじちゃんが ケーキを つくってくれたよ!

 いちごの ショートケーキ! とってもあまあまで おいしー!

 あしたもいちにち がんばるぞーっ!


 あしたもいいこと ありますように!



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