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2月6日


 二月六日。

 今日の町田青年は、久しぶりに絵筆を手に取っていた。


「……うん、これでよし」

「わぁー……!」


 チラシ作りの為である。

 兎にも角にも、「新しく開きました!」と街に知らしめねば話にならぬ。

 幸いにもチラシ作りは前職で慣れ親しんでいたので、絵筆は思うより早く進んだ。


「これを、コピーして頂ければ、大丈夫かと」

「うっわ、久しぶりに見たけど……」

「すごいねーっ!」


 それは、流麗な筆捌きで彩られた、喫茶店の絵であった。

 エプロンに身を包んだメアリーと夢見の姿もあり、二人は満面の笑みで喫茶店へと誘っている。


「……なんだか、自分を描いて貰うのって恥ずかしいかな」

「でも、うれしい!」

「そうねぇ。結構、嬉しいね」

「喜んで貰えて、何よりです」


 嬉しそうに微笑んだ町田青年は、チラシの原稿を手渡した。


「……それじゃ、お願いします」

「任されましたっ!」

「がんばるぞーっ!」

「「おーっ!」」

「いってらっしゃい」


 チラシをコピーして、近所に配るのは二人の役目だ。

 本当は町田青年も手伝いたかったのだが、町田青年には町田青年のやることがある。

 元気良く飛び出した二人を見送って、町田青年はそっと気合を入れた。


「……さて」


 気を取り直して、町田青年は絵筆を置き、手を丹念に洗ってから、手回し式のコーヒーミルに持ち替える。

 丁寧に、昨日上三に教わった様に豆を挽く。

 勢い良くやってはならない。そうすれば、豆が加熱されてしまい、香りが飛んでしまうのだ。

 焦らず、じっくりハンドルを回すのがコツだ。幸い、この作業は町田青年に向いていた。


「……うん、いい匂い」


 やがて、豆の香りが辺りに充満する。

 その香りをしばらく堪能すると、彼はそっと粉を取り出し、温めていた器具にセットした。


 そう。町田青年は喫茶店の主として、珈琲淹れの練習をしていたのだ。

 お客さんに出すことになる以上、付け焼き刃になろうとも練習する必要はあるという、生真面目な彼自身の判断である。


「……そっと、のを描く……」


 適温の湯を注げば、辺りに快い香りが充満する。

 そうして出来上がった珈琲を、ゆっくりと一飲みして。


「……うーん」


 町田青年は、ゆっくりと唸った。

 自分は美味しいと感じるが、他人がそう感じるかは未知数だった。

 不安は練習をしろと喚き立て、彼を急かす。

 

「……もう一回」


 珈琲を飲み干し、もう一度練習に励む。

 夕暮れまで、念を入れて続けた。


***


「……で、飲み過ぎたんですか」

「はい……」


 呆れた様に夢見が呟けば、町田青年は申し訳なさげに唸る。

 あれから結局練習し過ぎ、カフェインの摂り過ぎて頭痛が起こってしまったのだ。


 布団を被らされ、安静にさせられた彼は、酷く落ち着かなさげで、縮こまって見える。


「ご飯を、作らなきゃ……」

「ダメです」

「めーちゃんがつくるよ!」

「せ、洗濯物」

「ダメです」

「めーちゃんたためるよ!」

「……お風呂掃除」

「ダメです」

「めーちゃんあらうよ!」

「うぅ……」


 あれもダメこれもダメ。頭ごなしに言われるが、自業自得なのでどうしようもない。

 結局この日、町田青年は頭痛に呻くことしか出来なかったのであった。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは チラシを くばってきたよ!

 いろんなとこに いってきたの! だんちでしょ こうえんでしょ しょうてんがいでしょ あと いろいろ!

 いっぱい いんさつしたけど ぜーんぶなくなったよ! またいんさつするんだって!

 おきゃくさん どのくらいくるかな? たのしみ!


 かえってきたら おじちゃんが たおれてたよ!

 とっても びっくりしたけど コーヒーの のみすぎだから いちにち やすめば なおるって。

 ゆめみせんせーが ぷんぷんって おこってたよ!

 おじちゃん すごーく ちっちゃくなってた! そいねしたら あたまなでてくれたよ!


 あしたは おみせひらくんだって!

 いっぱいくるといいなー!


 あしたもいいこと ありますように!



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