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2月4日


 二月四日。五時。

 今日はいつもより早く、町田青年の目が覚めた。


「…………あぁ、そうか」


 見慣れない天井に彼は瞠目するが、暫くすると落ち着いて目を閉じる。

 此処は喫茶店二階。居住区画である。

 いつものぼろアパートからは引っ越したのだ、自分はもうこの時間に起きる必要はないのだと思いだし、町田青年は安堵の息をついた。


 手で探れば、胸の上にはメアリーがすやすやと寝ている。

 彼の横では、夢見が穏やかに眠っていた。

 パジャマから覗く豊満な谷間が呼吸で動くさまは、町田青年が思わず顔を背ける程の魅惑があった。


「…………」


 そっと、メアリーを持ちあげ、夢見の懐へと持って行く。

 無意識に夢見はメアリーを抱き締め、見事谷間は隠された。


「むぅぁー……」

「んふふ……」


 若干寝苦しそうであるが、二人とも起きることはなかった。

 目のやり場に困ったら、次はこうしよう。

 そう思いながら、町田青年は布団を被り直した。


***


 十二時。

 大学へ向かう夢見を送りだした町田青年は、一階の厨房で調理をしていた。


「……メアリーさん、これはどうですか?」

「おいしー!」

「そうですか」


 喫茶店のメニュー作りである。

 作る際、どのくらいの時間がかかるかの検討も兼ねて、町田青年は様々な料理を拵え続けていた。

 オムライス、チャーハン、カルボナーラにうどん、etc.etc……。


 メアリーにとっては食の博物館、といったところだろうか?

 感激のあまり、目が零れおちそうな程見開かれていた。


「……おじちゃん、すごいねーっ!」

「そうでしょうか?」

「うんっ! ゆめみせんせーがだいがくいってから、こんなにつくっちゃった!」


 ……カウンターには既に、ざっと数えても二十以上の料理が並んでいる。 

 これらは夢見が大学へ行ってから作ったもので、およそ三時間程度でこれらを作り上げていた。


 元々料理は好きだったからか? それともメアリーや夢見という他人へ料理を作っていたからだろうか?

 思わぬ成長に、今度は町田青年本人が驚いていた。


「……おぉ」

「ね! おじちゃん、やっぱりコックさんにむいてるんだねーっ!」

「そうでしょうか」

「そーだよ!」

「そうですか」

「そー!」


 驚きを顕に町田青年が料理を見やれば、メアリーは興奮冷めやらぬ、といった風に言う。

 自分の確かな実力を感じて、少し町田青年は考えた後。


「……メニューは、広めにしておきましょうか」

「はーい!」


 ちょっとだけ、自信を持ったのであった。


***


「……で、この有様ですか」

「はい」

「はいじゃないです」

「ごめんなさい」


 夢見が大学から帰ってきた頃。

 町田青年は夢見の指示で、床に正座をしていた。


 彼の周囲……いや店内には、乗せれる場所、皿という皿に料理やお菓子が盛りつけられていた。

 どの皿の料理もお菓子も美味しそうではあるが、こうも埋め尽くされると手のつけようがない。


 唯一皿の侵蝕を受けず無事なのは、メアリーの座っている席くらいだろうか?

 メアリーもお腹を苦しそうに抑えている辺り、無事とも言い難いが。


「つい」

「つい?」

「調子に乗りました」

「はい」

「もうしません」

「……まぁ、いいんですけどね? 節度を持ってくれれば」


 お客が来ない以上、処分するのは私達なのだぞ、と念を押せば、町田青年は一回り縮こまる。

 なんとも情けなく、可愛らしい。大の男に言う言葉ではないが、夢見はそう思って笑った。


「……じゃ、軽く温め直してください。メニュー決めましょ、メニュー」

「はい」


 どうにか自分の席を確保して、夢見は笑いかける。

 これが終わったら、ランニングに行かねばと思いながら。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは おじちゃんと メニューづくりを したよ。

 おじちゃん いっぱい いっぱい おいしいりょうりつくるの。

 いろんな おかしもつくるの。


 めーちゃん すごいねって いったら おじちゃん よろこんでた。

 でも おじちゃん よろこびすぎて つくりすぎちゃったのね。

 めーちゃんも ゆめみせんせーも おなかぱんぱんになっちゃったよ!


 だから ひとやすみしたら みんなで おさんぽにいったよ。

 きょうのよるは さむくて くらいけど みんなでいけば こわくない!


 あしたはなにをするのかな。

 あしたもいいこと ありますように。


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