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2月3日

鬼は外!

幼女は内!

お巡りさんも内!


 二月三日。

 今日の三人は、一旦夢見の家に来ていた。


「あらぁ、サムくん久しぶりねぇ」

「はい、ご無沙汰しております」


 夢見の荷物を、新居に運んでしまう為である。

 業者を呼ぶとお金がかかるので、今日は軽トラックをレンタルしてきている。

 メアリーはしきりに荷台へと乗りたがったが、それは今日の終わりに、ということで収めている。


 そうして早乙女邸にお邪魔したところ、彼女の家族に出逢うこととなった。

 一軒家の立ち並ぶ住宅街の一角、他の住宅と全く同じ形をした早乙女邸から出迎えたのは、夢見の母、早乙女夢子である。

 緩いウェーブをかけた茶髪と実年齢より若々しい加齢、おっとりとした雰囲気を覗けば、夢見にそっくりなこの女性と、町田青年は顔見知りの仲であり、出逢って早々に和やかな挨拶を行った。


「サムくん。もしかして、その子がメアリーちゃん?」

「はい。メアリーさん、夢見さんのお母様です。ご挨拶を」

「メアリー・スーです! あけましておめでとうございます!」

「あら、二月なのに?」

「にがつだけどー!」


 驚きながらも、夢子夫人はちゃんと新年の挨拶を返す。

 そんな時、奥から慌てて駆けてくる音が聞こえて来た。

 他でもない、早乙女夢見である。


「先輩っ! おはようございます!」

「はい、おはようございます」

「おはよーございます!」


 朗らかな挨拶を終え、彼女は早速二人は中へ通す。

 夢見の部屋は既に荷造りを終え、段ボールが八つ程、部屋の隅に鎮座していた。。


「取りあえず、これらを持って行って貰えますか?」

「はい。……メアリーさん、ちょっと離れていてくださいね」

「はーい!」


 メアリーが足元から離れたことを確認して、町田青年は段ボールを持ち上げる。

 中身は本でも詰まっているのだろうか。ずっしりとした重みを、町田青年は苦もなく持ちあげた。


「ごめんねぇ、夢見ったら急に決めたから。色々大変だったでしょう?」

「いえ。良い機会を頂けましたので」

「あら、そう? あの子もたまには良いことするのねぇ」

「お母さん、バッチリ聞こえてるんだけど?」


 小物を運ぶ夢子夫人が、のんびりと毒を吐く。

 夢見はそれを睨んで返したが、夢子夫人がおほほと笑って誤魔化す辺り、割といつもの光景なのだろう。

 町田青年は薄く微笑んでそのやり取りを流したが。


「ゆめみせんせー、たまにじゃないよ!」

「あら、そうなの?」

「ちょっ」


 メアリーはぷぅ、と頬を膨らせて反論した。

 本人は庇っているのだろうが、困った様子を浮かべるのは夢子夫人ではなく夢見であるのに気付かず、メアリーは続ける。


「ゆめみせんせー、いつもめーちゃんにいろいろおしえてくれるもん! せんせー、やさしーんだよ!」

「ちょっ、ま、メアリーちゃん」

「あらあら。それはそれは」


 にまにまと笑われれば、夢見の顔は気恥ずかしさから赤くなっていく。

 夢子夫人はメアリーの頭を撫でながら、柔和に、悪戯っぽく微笑んだ。


「じゃぁ、メアリーちゃん」

「なーに?」

「おばさん、夢見ちゃんが色々何をしたのか聞いてみたいから、また来てくれる?」

「うんっ!」

「メアリーちゃーん!?」


 素直に頷いたメアリーに、夢見は悲鳴を上げる。

 きっと根掘り葉掘り聞かれて、夢見が悶絶するのだろう。

 仲が良くていいなと、黙々と荷物を軽トラへ運んでいた町田青年は微笑んだ。


***


「……さて。今日のお夕飯ですが」


 荷を全て移動させ、一心地ついた頃。

 町田青年が、不意に口を開いた。


「あれ、作ってきたんですか?」

「はい。今日は忙しくなるだろうと思って」


 それは、引越前に作り置きしておいた品であった。

 太く、そして長いそれらは、黒々としており、不可思議で、芳しい香りを放っている。

 

「恵方巻き、作っておきました」

「えほうまき!」

「あぁ、節分でしたっけ」


 そう、恵方巻きである。

 ちゃんと大豆も容易されており、鬼のお面は手作りである。

 箒やちりとりも完璧であった。やる気満々である。

 

「節分というのは、年に一度、悪疫を齎す鬼を炒り豆で追い出す行事です」

「歳の数だけお豆を食べて、決まった方向へ向かって恵方巻きを食べるのよー」

「今年は、南南東ですね」

「へー……!」


 きらきらと目を輝かせて、メアリーが恵方巻きを見る。

 その目が食べていいのかどうかを聞いているのを見て、二人は微笑みながら彼女の頭を撫でた。


「恵方巻きは一気に、喋らずに食べるんですよ」

「はーい!」

「じゃぁ、皆さんご一緒に!」


「「「いただきます!」」」」


 三人揃って南南東を向き、恵方巻きを頬張る。

 静かだが、少しおかしい、冬のひとときであった。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは おひっこし してきたよ!

 あたらしいおうち! ちょっといいにおい!


 ゆめみせんせーの おかーさんにも あったよ!

 おかーさんって ふしぎなかんじ! またきていいよって いってくれたから またいきたいな!


 えほうまきも おまめも たべたよ!

 メアリーのとしのかず? よくわかんないから いつつたべたよ!

 ……おいしい? よくわかんない。 でも いただきました!


 おにさん さむくないかな。 かぜひかないといいけど。

 きっと じぶんのおうちに かえるんだね。


 あしたから おしごとのために がんばるって!

 あしたもいいこと ありますように!



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