12月29日
十二月二十九日。
一足遅れたが、楽しむものは、楽しまねばならない。
「おうおう、元気になったなぁ、メアリー嬢」
「いぇーい!」
「おう、いぇーい」
元気になったメアリーとハイタッチするのは、お馴染みの常連、六天縁時印だ。
彼にとっても久し振りの再会であり、その好々爺とした笑みは更に味わい深く見える。
「めーちゃんのパーティです!」
「そうだねぇ。飾り付け、がんばったもんねー?」
「うん!」
「そりゃぁすごい。じゃぁ、楽しまんとな」
「うん! たのしんで!!」
手を握ってぶんぶん振るメアリーは、もうすっかり元気を取り戻している。
それに常連達も安堵の表情を浮かべ、一足遅れのクリスマス・パーティーを楽しんでいた。
そしてそれはメアリーも、夢見も、町田青年もそうであった。
「さ、そろそろサンタさんがくるわよー?」
「サンタさん!!」
「ほう、こんなに遅れてもやってくるものか?」
「ウチのメアリーちゃんがいい子じゃない訳がないでしょ?」
「ははぁ、それは確かに」
褒められればえへんと無い胸を張るのがメアリーである。
そんな彼女をよしよし、と撫でれば――玄関口をノックする音が響く。
「きた!?」
「ほらメアリーちゃん、お出迎え」
「はーい!!」
ぴょん、と飛び出した先。
玄関の向こう側で待っていたのは、赤いコートに赤い三角帽子。
もじゃもじゃでふわふわ、真っ白お髭の――。
「……めありーくりすます」
「サンタさん!!」
「はい」
――町田三夢である。
いつもの優しげな仏頂面。いつもの厳しげな微笑み。
そんないつもの三夢が、仮装と袋を携えて帰ってきたのだ。
「おかえりなさい!!」
「はい」
(おい、バレたか?)
(ま、まだ大丈夫の筈……)
あまりにもいつもの過ぎてバレたのではないかとヒヤヒヤする観客達であったが、どうやらいつもの接待挨拶の様である。
しかし、頭を撫でられると嬉しそうに頬を寄せている辺り、頭で理解していなくとも、身体が理解している可能性はあった。
完全に人選ミスであった、自分がやれば良かったと、後に六天縁は語る。
「メアリーさんは、この一年とてもいい子でした」
「えっへん!」
「なので、プレゼントをあげます」
「ハンコいる?」
「此方にお願いします」
「はーい!」
完全に人選ミスもいいところだったが、それでもメアリーは楽しんでいる様である。
そうして受け取ったプレゼントの包装紙を、びりびりと破いて出てきたものは――。
「おにんぎょうさん!!」
「はい」
――新しい、人形であった。
白木を彫った肌、金糸の長髪。青いびいどろの瞳。
それは正しく、メアリーを模した人形であった。
町田青年の、お手製である。
「わぁ……!」
「どうですか」
「すっごい!」
「そうですか」
にぱ、とメアリーが笑えば、町田青年もふと微笑む。
あれだけ元気を失っていた二人が嘘のようで。
「ありがとーございます!」
「はい。どういたしまして」
この先もきっと、大丈夫だと。
その様子を見ていた人々に、安心感を与えるのであった。




