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12月28日

辛い時に辛いことを書けなくて、逃げ出したくなったけど


埋め合わせはできなくても、おわりくらいはつくりたくて

としこしまで、もちょっとがんばります


 十二月二十八日。

 おおよそ一ヶ月半の空白を経て、町田青年は再び日記を埋め始めた。


「様々なことが、ありました」


 本当に様々なことがあったと、彼は回顧する。

 あれから、メアリーが少しずつ、少しずつ、弱っていった。


 風邪を引いた、という訳ではない。

 身体の力が、少しずつ、少しずつ、弱くなっていったのだ。

 最初はどれだけ振り回しても離れないくらいのしがみつきが、徐々に、徐々に、弱く。


「……あの頃は辛かった」


 苦々しく、町田青年は呟く。

 どうしようもないくらい、解決手段は見つからなかった。

 どの病院を頼っても、どの医者に頼っても、原因が分からないのだ。


 日に日に弱るメアリーを見ると苦しくて、悔しくて、情けなくて。

 酒に逃げそうになって、夢見にぶたれてしまったこともあった。

 今思うと、情けない限りである。


「でも、今は」


 今は、違う。

 そう声高に言いたかったが、時間が時間なので彼は諦めた。

 それに、自らの勝利とは言い難い。結局のところ、踊らされ続けていたのだから。


 ILO。国際労働機関。

 結局のところ、町田青年は彼らに頼らざるを得ず、彼らはそうなることを知っていた。

 メアリーの身体は調整しなければ一年間しか保たず、全身の筋肉――最後に心臓さえも――が衰えて死ぬ、ということも。


 そして。


「……おやすみなさい、メアリーさん」

「……んにゅ」


 メアリーは、ここにいる。

 ここにいるのだ。信じがたいことに。


 彼らはメアリーの再調整に報酬も何も要求しなかったが、口外だけは禁じた。

 恐らくメアリーのデータを元に研究を進めるのだろう。その先で、何か不幸なことが起きてしまうかもしれない。

 しかし、町田青年にはどうすることも出来ない。ただただ、そうならないことを願うのみであった。


 再び健康な状態に戻ったのは、ついこの間の話だ。

 しがみついたあの力強さが、本当に嬉しかったものだ。


「……さて」


 時間は取り戻せない。

 しかし、自分の頑張り次第で、楽しみは取り戻せるだろう。

 残る三日で、全てを回収しなければ。


 そう思いながら、町田青年は、漸く安堵の表情を浮かべた。


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