11月13日
十一月十三日。
だいぶ髪が、長くなってきた。
「…………ふむ」
町田青年の髪が、である。
眉より下、つまり瞼に差し掛かる程なのだ。
これでは料理に差し支えるし、何より抜け毛が料理に入っては事である。
「切る、か」
髪用の鋏を手にとって、町田青年は洗面所に立つ。
パサ、パサ、パサリという音と共に、黒い髪が落ちていく。
髪は記憶を保持している、などと何処かで聞いた気がするが、果たして何処だったか。
そんなことを考えていると――。
「えいっ!」
「あっ」
――手元が狂った。
肌を切ってはいないが、少し想定した形にはならなかった。
メアリーの激突でも、少し手元が揺れるのである。不覚であった。
「……危ないですよ」
「えへへ、ごめんなさーい」
「はい」
気を取り直して、散髪を続ける。
だが、どうにも。想定した形には、中々ならず。
手直しして、違うなと切り、また手直しして、また違うなと切り……。
「……けっこう、きったね?」
「……はい」
ショートヘアを通り越し、スポーツカットの様になってしまった、町田青年であった。
次からは美容院に行こう。
彼はそう思いながら、散らばった髪を拾い集めていった。




