313/326
11月9日
十一月九日。
喫茶店の従業員というのは、存外立ちん坊になることが多い。
無論“いかがわしい”方ではなく、文字通りの意味である。
「あの、疲れてませんか?」
「いえ」
「なら良いんですケド」
「はい」
お子ちゃまなメアリーは勿論だが、夢見もそこそこに休む。
しかし、町田青年は立ちん坊である。
開店から閉店までの間で、彼が休むのは昼食の十分間と、三時間に一度、トイレを挟むかどうかである。
前職が前職だけに、立ちん坊も慣れているのだろうが、それにしても驚きの体力であった。
「おじちゃん、かちかち!」
「足が、ですか」
「うん! えっとね、おっきな……き、みたい!」
「樹木」
そんなに、と思いながら足をさすると、成程確かにかちかちに筋肉が張っている。
早朝のランニングの賜物だろうが、あまり堅いのもよろしくはない。
「柔軟、するべきか」
「するべし!」
「はい」
お風呂上がりに柔軟を。
メアリーに優しい身体を目指す、町田青年であった。




