10月24日
十月二十四日。
今日は、喫茶"MARY"が珍しく、遅くまで開いている。
だが、客が新たに入ってくることはない。
今日は、貸切なのだ。
「先生、おめでとうございます!」
「おぉ、ありがとう、ありがとう」
六天縁時印。
常連客の彼は、SF大作家という肩書きを持つ好々爺だ。
そんな彼が、気紛れにライトノベル業界に参戦し、見事大受け。アニメ化するということで、若手作家や身近な人々と、ささやかなパーティーを開いていたのである。
「おじーちゃん、おめでと!」
「おう、おう。祝ってくれるか、メアリー嬢」
「うんっ! おじーちゃんのごほん、めーちゃん、すきー」
「ははは! それは嬉しい限り!」
しかし取り分け、六天縁が嬉しがったのは、メアリーの折り紙で作った勲章であった。
酔った勢いも手伝ってか、孫代わりの猫可愛がりか、珍しく抱きかかえている。
聞けば、六天縁は未だに独身らしく、天涯孤独の身だという。
家庭はいらぬが孫は欲しい。そんな彼に、メアリーはうってつけなのだろう。
「よぅし、次は絵本でも書いてみるかな!」
「やったー!」
そんな要望も受け入れる、喫茶"MARY"の主、町田青年は。
隠れた名店のマスター気取りで、寡黙に気を回し続けていた。




