10月13日
十月十三日。
風邪も治って、シャワーで溜まった垢を湯船に流せば、自然と頭も働く様になる。
動く頭でまず町田青年が考えたのは、いつも通りの朝食を作ることであった。
「あれ、起きちゃったんですか」
「おや……おはようございます」
「はぁい、おはようございます……って、そうじゃなくて」
そんな彼を苦笑でもって迎えたのは、珍しく早朝から起きていた夢見であった。
ここ数日、町田青年に代わり店を切り盛りしていたお蔭か、料理の手捌きも町田青年に追い付かんばかりとなっている。
そんな彼女は、病み上がりの身で働こうとする不届きものを追い返すべく、どうどうと身構える。
「ダメですよ。今日は定休日なんだから、先輩は寝ててください」
「いえ、もう治ったので」
「……無理しないでくださいね?」
「はい」
しかし町田青年にとっては、頭の働く状況で働かない方が無理である。
そんな彼の気持ちを察してか、夢見は食器と布巾を手渡した。
火元や包丁を任せて貰えず、しゅんとしながらも、町田青年は食器を丹念に磨く。
「……何か、あったんですか」
「何も」
「うそつき」
「はい」
一刀両断であった。
思えば町田青年は一日音信不通になり、帰るなり風邪をひいたのである。
メアリーのみならず、夢見も心配しただろうに、今まで何も聞かずにいたのは、一重に慈悲あってのこと。
今更言い訳や誤魔化しは出来るものではない。が、さりとてどう言えばいいのか、町田青年には分からなかった。
「気持ちの整理が出来たら、話してくださいね?」
「はい」
そんな彼に助け船を出すのは、やはり夢見その人な訳で。
町田青年は頭を下げながら、少しずつ飲み込むことにした。




