284/326
10月12日
十月十二日。
町田青年は一度体の調子を崩すと、割と長引く方だ。
「はい、あー!」
「……あー」
「えへへーっ、えらいえらい!」
だが確実に快方に向かうので、今日はメアリーに看病担当である。
夢見が一人切り盛りしている状況に申し訳無さはあるものの、店をいつまでも閉めている訳にもいかないのである。
「まだなにか、あるー?」
「……いえ、もう、大丈夫です」
「そーぉ? じゃぁ、なでなでしたげるー」
「……はい」
正確には、メアリーのそれはほぼ看病ごっこなのだが、子供に慈しまれるというのは、不思議な安らぎがある。
寝汗でごわごわとなった髪を、小さく柔らかな手で梳かれるのは、なんとも言えない快癒であった。
しかしながらメアリーに触れる度、町田青年の脳裏には、嘲笑う様に女史の言葉が浮かび上がっていた。
まるで悪夢に怯える、子供の様な気分であった。




