1月20日
顔面滑り込みセーフ
一月二十日。
今日のメアリーは、芸術家であった。
「わんわん!」
「おー、可愛い可愛い」
クレヨンとコンパス、そして鉛筆を使って、メアリーは様々な絵を描く。
花畑、犬、星に人魚に桃太郎……。
……皆全て、絵本や児童書から知ったものである。
挿絵のあるものは出来がよく、挿絵のないものはそうよくはない。
メアリーが此処に来るまでに何をしていたのか分からない夢見には、それがどうしてか知る事はできなかった。
「でも、さおとめのほうがおえかき、じょーずだねー?」
「そりゃ、高校の頃は美術部だったからね」
「びじゅつぶ?」
「んー、お絵描きしたり、像を作ったりするのよ」
「へー……!」
さぞや楽しい光景に見えたのだろう。メアリーの目がきらきらと輝く。
実際はそう良い物でもないのだが……と考えながらも、その気持ちを否定せずに夢見は頷く。
「私は水彩画だけだったけどね。町田先輩は、色々やってたなぁ」
「おじちゃん、いっぱいやってたの!?」
「やってたやってた。えっと、水彩画、油絵、彫刻……」
指折り数えて思い返しながら、夢見は思い出話をする。
あの頃の町田青年が一番、色々な表情を浮かべていたのだ。
早乙女夢見の青春であり、町田三夢の青春でもある。
そして……。
「……めーちゃんもやるっ!」
「えっ」
……いつの間にか、メアリーの憧れにもなっていたのだった。
鼻息荒く、メアリーはお絵描きに没頭したかと思えば。
「……むーっ! さおとめより、うまくできない……!」
と、頭を抱えていた。
可笑しくなって、夢見はくすくすと笑いながら、彼女の頭を撫でる。
「メアリーちゃん、メアリーちゃん」
「なーにっ?」
「教えてあげようか、絵の描き方」
「いいのっ!?」
「うん。た・だ・し……」
「た、ただし……?」
指に手を当てて、夢見はいたずらっぽく笑う。
いったいどんないぢわるが来るのか。メアリーはごくりと生唾を飲み込み……。
「……これからは夢見先生って呼ぶこと!」
「えーっ!?」
がく、とズリ落ちた。
「だって苗字とか堅苦しいじゃない!」
「さおとめせんせー!」
「頑なに譲らない!? そんなに大事なの苗字呼び!?」
ぎゃいぎゃいと喚きながら、二人はあぁだこうだと議論を重ねる。
……最終的に「ゆめみせんせー」に落ち着いたが、専ら「せんせー」呼ばわりになり、苗字すら呼ばれなくなるのは先の話である。
■メアリーの にっき■
きょうも (ぐちゃぐちゃに塗り潰されている) ゆめみせんせーと おえかき!
いろんな えを いっぱいかいたよ!
あしたから ゆめみせんせーが せんせーをするらしいよ!
あした いいもの かってきてくれるって!
おじちゃんも めーちゃんの おえかきみて うれしそうだった! やったね!
あしたなにが くるのかな?
あしたもいいこと ありますように!




