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1月19日

※夢見さんは標準的な体重です


 一月十九日。

 早乙女夢見は、大学に通っていた。


「……あぁ、ダル」


 尤も、彼女がやる気を出して授業に出ていたかといえば、そうでもない。

 寧ろやる気は最低値に達しており、机に突っ伏しながらスマートフォンを弄くり倒していた。


 夢見は大学三年生である。

 それなりに優秀で、それなりに不真面目。しかして容姿は淡麗な彼女は、上手く世渡りすることで、易々と卒業に必要な単位を確保していた。

 ひたすら真面目に作業をこなす町田青年とは真逆であるが、勉学に対する態度としては彼の方が正しいということは、夢見の認めるところである。


「先輩がいればなぁ……」


 そうしたら、授業も楽しくなるのにと思いながら、夢見は授業内容を書き留める。

 町田青年が大学にいた頃は、長ったらしく難解な教授達の話を、分かりやすく、丁寧に解説して貰っていたものだ。

 懐かしい思い出に浸りながら、夢見は別な妄想も膨らませる。


「でも、メアリーちゃんもいいなー……」


 メアリーが授業にいれば、教室もさぞ華やかに違いない。

 とにかく質問して、知識を取り入れようとする彼女のことだから、授業にも積極的に参加してくれるだろう。

 ……高確率で教授から怒られるのでやらないが、もしかしたら話の分かりづらい教授達も鍛えられるかもしれないなとほくそ笑んでしまう。


「なーに笑ってンの?」

「んー?」


 そんな笑みを浮かべていると、隣に座っていた学友が声をかけてくる。

 軽薄な男だが、どんな人でも最低限の人付き合いはする夢見である。快くというよりか、暇つぶしと割り切った、割と雑な口調で対応した。


「授業が退屈だから、隣にちっちゃい子がいればなーって」

「チビッ子が?」

「そうそう。何するか分かんないから、授業が楽しくなるかも」

「えー、そうかなぁ」


 男は腕を組みながら、首を傾げる。

 いかにも軽薄、といった風な格好だが、考えることも出来ない程脳がふやけている訳でもないらしい。


「ガキずっと見てなきゃいけない訳じゃん? それって疲れね?」

「でも、オジサンずっと見てても疲れるじゃない」

「あー、それはあるわ。あのハゲ見続けるくらいならガキの方がナンボかマシだわ」


 納得した様に男が頷く。

 どうやら教授と子供では、男性でも子供の方が癒しになるらしい。

 町田青年もそうなのだろうかと、夢見は今も仕事しているであろう彼を想う。


「で、もしそんな感じで、ちっちゃい子がいたらどうする?」

「あー? んー、多分アレだ。ガキが落書きするじゃん?」

「うんうん」

「それに俺も書き足す」

「一緒にお絵かきするの?」

「レポート書いてるよか楽しいっしょ?」

「それはそうかも」


 くすくす、けらけらと笑いながら、授業終了のチャイムが鳴る。

 これで今日、夢見が受ける授業は終わりだ。

 レジュメなどを片付けながら、帰りに文具屋でも覗いてみようと考える夢見であった。


***


「わぁ……!」


 十四時。メアリーを訪ねて来た夢見は、コンパスや三角定規を買って来ていた。

 見た事の無い文房具に、メアリーは目を輝かせる。


「なにこれ!?」

「コンパスだよー。こうやって、綺麗に丸を書くの」

「おー……!」


 次々と、綺麗な円が量産され、メアリーは目を丸くする。

 メアリーの持ち方は小さな子特有の、ぎゅっと握るやり方なので、丸く綺麗な円は作れないのだ。


「さおとめ! さおとめ! もっとマルかいてっ!」

「はいはい。メアリーちゃんは沢山の丸でどうするのかなー?」

「えへへー、それはねー……」


 黄色いクレヨンを取り出して、メアリーは円に装飾をかける。


「……できたっ!」

「おぉ。これは?」

「おはなばたけっ!」


 出来上がったのは、沢山の向日葵であった。

 それらに囲まれながら、三人の人間を象った絵が、こちらに笑いかけている。

 細長い人、黄色の頭をした人、太い丸で造られた人の三人だ。


「こっちがおじちゃんで、こっちがめーちゃん!」

「うんうん」

「こっちがさおとめ!」

「ねぇ、私がそれでいいの?」

「うんっ!」

「うん、よくない」

「えー!」


 ……夢見は太い丸の人であった。

 腹いせ混じりに軽く揺すってやれば、きゃぁきゃぁ笑いながらメアリーは胸に飛び付く。


「次は細く描いてね」

「はーいっ!」


 お腹と胸を揉みしだくメアリーに、夢見は絵の描き方というものを教えてやらねばならないと決意を抱いた。

 ……主に自分の名誉の為に。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは さおとめと おえかきしたよ!

 さおとめが コンパスを くれたから まるが いっぱいかけた!

 だから おはなばたけ かいたよ!

 めーちゃんと おじちゃんと さおとめ! みんな にこにこ!


 さおとめも めーちゃんの え かいてくれたよ!

 めーちゃん かわいくかけてた! でも あんなに ぷくぷく してない!

 でも さおとめ おえかき じょーずだった。 めーちゃんも おえかき おじょーずに なりたいな。


 かえってきた おじちゃんに みせたら ほめてくれたよ!

 そのあと おじちゃんが さおとめの おえかきしたんだけど……

 ……すっごく おじょーずだった! 「デッサン」っていうんだって!

 おじちゃん えかきさんになれば いいのにね。


 ゆきだるまさんも かいてあげたけど ゆきだるまさん よろこんでくれるかな。

 あしたもいいこと ありますように。


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