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1月18日

地味に天候連動型小説です。


 一月十八日。

 朝、起きたメアリーを待っていたのは、窓いっぱいに広がる銀世界であった。


「……わぁ……!」

「……わぁ……」


 窓から顔をのぞかせながら、メアリーは目をきらきらと輝かせ、町田青年はただでさえ少ない瞳の光を失う。

 そう、雪である。

 昨日みぞれ混じりだった雨が、朝までに沢山降り積もってしまったのだ。


「アレ、なにっ!?」

「雪、です」

「ゆき!?」

「はい……」


 町田青年は肩を落としながら頷く。

 見た限りでも、降雪量はだいぶ多い。この分だと、店前の雪かき作業も強いられることだろう。

 去年買った除雪スコップは何処へやったかと首をひねりながら、彼はメアリーに話しかける。


「メアリーさん」

「なーに!?」

「雪は滑ります」

「すべるの!?」

「そして冷たいです」

「つめたいの!?」

「はい」

「ほぁー……!」


 目をこれでもかと言わんばかりに見開くメアリーを他所に、町田青年は押入れからスコップを取り出す。

 毛糸帽子とコート、そして厚手の手袋を身につけ、メアリーの頭を撫でてから言った。


「滑らない様に、後、身体を冷やし過ぎない様に」

「はーい!」

「外に出る時は、早乙女さんと一緒に出てください」

「はーいっ!」


 はしゃぎ過ぎて、聞いているのかいないのか。

 ともあれ元気のいい返事を信じながら……。

 

「では、行ってきます」

「いってらっしゃーいっ!」


 ……町田青年は重い足を引きずりながら、仕事へと向かった。


***


「……うー、さぶさぶ」

「ゆきだーっ!」


 十二時。

 雨脚が収まり、外に出られる様になった頃に夢見はやって来た。

 本来なら大学の関係で後一、二時間後の筈だったが、この大雪で電車が止まり、休講になったらしい。

 それならばと、歩いてここまでやって来たそうだ。町田青年が聞けば頭を下げて礼を言ったことだろう。


「ゆき! さおとめ、ゆき!」

「うんうん。滑らない様に、ゆっくり歩いてねー」

「うんっ!」


 恐る恐る、といった感じに、メアリーは長靴を履いた足を、まだ汚れていない雪の中に押し込む。

 じゃく、という音と共に、小さな長靴が埋まっていき、その度にメアリーは歓喜の声を上げた。


「じゃくっていったー!」

「うん。ちょっと雪が溶けてたのかな?」

「ゆき、とけるの!?」

「溶けるよー。雪って、氷の結晶……ちっちゃな氷のあつまりだからね」

「へー……!」


 物知りな夢見に、メアリーは感心しながら頷く。

 しかし、ふと物寂しさを憶えて、メアリーは雪を踏みしめるのをやめてしまう。


「……どーしたの?」

「とけると……ゆき、いなくなっちゃう?」

「まぁ、そうだね。いなくなっちゃうかな」

「じゃぁ、めーちゃん、もういい」


 ぴと、とメアリーは夢見にひっつき、雪から遠ざかる。

 ゆっくりと抱き上げながら、夢見は彼女の顔を覗き込んだ。


「どうして?」

「だって、ゆきさん、かわいそうだもん」

「そっかー……」


 子ども特有の、優しさなのか。それとも……。

 夢見はしばし思案して。


「……じゃぁ、良い方法があるよ」

「えっ?」

「雪を長持ちさせられる、とっておきの秘策!」

「……ほんとっ!?」


 彼女は、いたずらっぽく微笑んだ。

 一旦メアリーを下ろすと、夢見は雪を丸め、握りしめる。

 あっという間に、手頃な大きさの雪球が出来た。ぽんぽんと手で弄びながら、夢見は説明する。


「こうやって、丸めて固めると、雪ってのは長持ちするのよ」

「そうなの!?」

「そうなの。……大きければ大きい程長持ちするわ! 今日はとっても大きい雪だるまを作るわよっ!」

「うんっ!」


 おー、と二人揃って声を上げ、メアリーは大はしゃぎで雪を丸め始める。

 身体が冷えきるまで、二人は熱心に雪だるまを作り続けた。


 ■メアリーの にっき■


 きょうは ゆきが ふったよ!!

 いっぱい いっぱい いーっぱい ゆきが ふったよ!!


 ゆきは おひさまで とけちゃうんだって。

 だからね めーちゃんと さおとめで いーっぱい ゆきだるま つくったよ!

 これで ゆきさんと しばらく あえるね!

 おじちゃんは かえってから ちっちゃな うさぎさん つくってたよ!

 おじちゃんは みためとちがって かわいいの だいすきだね!


 あしたも ゆきが ふるといいな!

 あしたもいいこと ありますように!



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