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1月16日

土曜日はちょっと多い日(文量の話)


 一月十六日。十時半。

 土曜日である。


 休みの日ともなれば、誰とて多少は気分が高揚するものである。

 それは町田青年も、メアリーも、そして……。


「……ちょ、ちょっと早く来すぎたかな……?」


 ……この大学生、早乙女夢見も変わらない。

 ここは以前も来た、大型ショッピングモール。

 待ち合わせ場所にうってつけの広場に、夢見はいた。


「い、いや、社会人予備軍として三十分前行動は基本だし?」


 などと口述しながら、自信の服装に不備がないかチェックする夢見。

 ちなみに今日の彼女は彼女に出来る目一杯のオシャレが施されており、その容貌は十人中十人がとは言わないまでも、七人は振り向きそうな美麗さであった。

 清楚に纏めつつも色彩は豊か。正に乙女の成せる技である。


「早く来ないかな、早く来ないかな……って、来た!」

「さおとめーっ!」


 元気良く手を振るのは、さらさらの金髪をウサギのフード付きコートで覆ったメアリーと。

 

「遅く……遅く? なりました。……待ちましたか?」

「い、いえっ! 今来たトコですから!」

「よかった」


 薄く、そして柔らかく微笑む、いつもの灰色コートとセーター姿の町田青年であった。

 ……ちなみに夢見も言っていたが、現在は待ち合わせ時間の三十分前。

 夢見が来たのは、現在より更に一時間前であった。乙女の逸りである。


「では、行きましょうか」

「「はーい!」」


 嬉し恥ずかし。複雑な想いを抱えた夢見と、素直に喜ぶメアリーが揃って声を上げる。

 談笑を楽しみながら、三人は目的の場所へと向かった。


***


 十ニ時。

 早めの昼食を済ませ、目的の場所へ辿り着く。

 

 今日は買い物に来ただけではない。

 たまの贅沢。お手軽に楽しめるレジャー施設がメインなのだ。

 それは……。


「えいが、たのしみだねーっ!」

「はい」


 ……そう、映画である。

 今日は三人で、映画を観に行く約束をしていたのだ。


「今日見るのは何でしたっけ?」

「海外のファミリー映画です。ご趣味に合いますか?」

「大丈夫ですよ、色々観ますし」

「それは良かった」


 観ることにしたのは、当り障りのないファミリー映画。

 海外の児童文学作品を原作としているらしく、メアリーが存分に楽しめて、町田青年や夢見も楽しめそうなモノが選ばれた。

 ポップコーンや飲み物も買って、準備は万端である。


「メアリーさんは、此方を使ってください」

「おーっ!」

「あぁ、座高足りないですもんね」


 映画館に備えられているクッションを座席に敷き、メアリーが観られる様にする。

 ご機嫌でそれに座って、彼女は飲み物を飲む。

 甘いジュースの味に、思わず顔を綻ばせた。


「今飲み過ぎると、おトイレに行きたくなっちゃうかもよー?」

「めーちゃんだから、だいじょーぶ!」

「それどういう理屈?」

「めーちゃんだから!」


 ぶい! と突き出された手を見て、茶化していた夢見も思わず吹き出す。

 苦笑混じりに、町田青年は彼女の頭をそっと撫でた。


「……御不浄に行きたくなったら、教えて下さいね」

「だいじょーぶだもんっ!」


 えへん、と平ったい胸を張るメアリー。

 大丈夫だろうか、と、町田青年と夢見は、二人揃って顔を見合わせるのであった。


***


「……うぅー……」


 ダメであった。

 太腿を擦り合わせ、じっとしているメアリー。


「……うぅ」


 二人はまだ気付いていない。

 というか、町田青年は既に映画に没頭している様だ。

 たまに読書をしている時も、没入するのが町田青年の癖である。

 この様な映画でも、それに外れることはなかった。とても残念ながら。


「んー……」

「ん?」


 どうしよう。

 限界が近付いているその時、夢見がふとメアリーの方へ向いた。

 幸か不幸か、三人はメアリーの席を挟む様に座っていたので、あまり映画(もしくはそれ以外の感触)に没入していなかったのだ。


「あぁ、ちょっとまってね」

「うん……」


 メアリーの変調に気付いた夢見は、すぐにメアリーを抱き上げ、館内のトイレへ向かう。

 無事間に合い、メアリーも夢見もひと心地ついた。


「はふぅ……」

「だから飲み過ぎ注意って言ったでしょ?」

「うー……」


 ぷい、とそっぽを向くメアリーに苦笑しながら、夢見はスカートで手を拭きそうな彼女にハンカチを渡す。


「まぁ、男の人に言うのって気恥ずかしいもん、仕方ないよねー?」

「え? なんで?」

「えっ」


 夢見の顔を赤らめながらの発言に、首を傾げるメアリー。

 呆気に取られた夢見に、さも不思議そうにメアリーは……。

 

「めーちゃん、おじちゃんともおふろはいるよ?」

「えっ」

「べつにはずかしくないよ? ねーなんでー?」

「…………」


 ……夢見にとっては、些か衝撃的な発言を行った。

 羨ましいやら自分がそうするには気恥ずかし過ぎるやら、色々と悩んだ末に。


「……別になんでもないわ……」

「えー?」


 家庭の都合上よろしくないので、へたれる他ない夢見であった。

 

 ■メアリーの にっき■


 きょうは みんなで えいがかんに いったよ!

 くまさんの えいがを みたの! くまさん かわいい!


 とちゅうで おトイレ いきたくなっちゃったけど さおとめが たすけてくれたよ。

 でも さおとめは おじちゃんに おトイレっていうの はずかしいんだって。

 めーちゃんは おふろに はいったことあるのに なんでだろーね。

 さおとめは おじちゃんと おふろ はいったことないのかな?


 えいがはとっても おもしろかったし ばんごはんも おいしかったよ!

 レストランで おこさまらんち! いっぱいいっぱいです!


 きょうは さおとめも おとまりだよ!

 さおとめは ふかふか おじちゃんは しっかり。 よりどりみどり!

 あしたもいいこと ありますように!


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