5月30日
五月三十日。
昨日の清掃が終われば、今日はピカピカの開店日だ。
「いらっしゃいませーっ!」
今日も今日とて、メアリーの柔らかい高音が響く。
六天縁の予想通り、来客の増加は一過性の物だった様で、いつもと同じ程度に客足は落ち着いていた。
「おきゃくさん、いつものひとたちだねー!」
「はい。……お客様のお顔を、憶えていたのですか」
「うん!」
そういえば、と言わんばかりの言葉に、町田青年は目を丸くする。
常連客の顔を憶えるのは大事だ。だが、それをメアリーにまで強いる気は、町田青年にはなかった。
しかし、メアリーは彼の予想に反し、常連客の顔を全て憶えている様だった。
推定にして五歳弱の幼女にしては、素晴らしい快挙と言えよう。
「おぼえてちゃ、ダメ?」
「いいえ。とても良いことです。ただ、驚きました」
「おじちゃん、おどろくの!?」
「はい。……メアリーさんと一緒だと、割と」
思わぬ事実に、町田青年は我が事の如く誇らしくなる。
思わずメアリーの頭を撫でれば、彼女もきゃっきゃと笑っていた。
■メアリーの にっき■
きょうは だいはっけん したよ!
なんと!
おじちゃんは ビックリする!!
ビックリした! めーちゃんがビックリした!
おじちゃん ビックリするんだって!
せんせーが ビックリするときは あるけど おじちゃん ぜんぜん ビックリしないのに!
すごい! だいはっけん!
いつ ビックリするのかな? せんせーに きいてみよっと!
あしたもいいこと ありますように!
ビックリとか!