1月15日
一月十五日。十五時。
土曜日まで残り一日。
そう思うと、メアリーも町田青年も、少しそわそわし始める。
仕事も何もかも忘れて、二人(もしくは三人)で一緒にいられる。
それが最近、たまらなく楽しみなのだ。
「……町田さん、何かいいコトあったんですか?」
「……えっ」
とはいえ、そんな町田青年の挙動を、最近注目している人々は気付かない訳もなく。
今日もまた、従業員の一人が彼に話しかける。
「何だか、機嫌良さそうじゃないですか」
「……そうでしょうか」
「そうですよ。何というか……いつもは死んだ目してるのに、今日はそうじゃないというか」
「……そうでしょうか」
そう言われて、町田青年は首を傾げる。
確かに昨日も、店長からやや理不尽に「浮ついている」と注意されたが、町田青年にはそれが表に出ている自覚がなかった。
現に今も、仕事は滞り無く行われており、寧ろ効率が更に良くなっているくらいである。
「あ、もしかして、カノジョでも出来たんですか?」
「いいえ」
町田青年は首を振る。
メアリーに対しては愛情を持って接しているのは確かだが、従業員の言う様な関係ではないと彼は思っていた。
「なら、何があったんです?」
「それは……」
だが、大っぴらに言えるものかと言われれば、そうではない。
一人暮らしの男が、幼女を囲っているなどと知れれば、通報案件として扱われても何らおかしくはなかった。
……夢見に話した件については、彼女が特に信用できると思ったからである。それはそれで、夢見が複雑な顔をしそうであるが。
「…………」
暫く考え込んで、漸く一言。
「……大事な人に、出逢えたので」
そう、呟く他なかったのであった。
それが従業員達に広まり、「片思い中か」だの「生き別れの人と云々」だのと、様々な憶測が飛び交ったのは言うまでもない。
***
二十時半。
そんな噂が広まり始めているとはつゆ知らず、町田青年は今日もケーキを片手に帰宅する。
いつものやり取りをして、そっと抱き上げた町田青年は、ふと思い立ち、言葉を投げかけた。
「メアリーさん」
「なーに?」
「メアリーさんは、私のことを、どう思っていますか?」
「んぅ?」
メアリーがキョトンとした顔で、首を傾げる。
暫く考え込んで、彼女は言葉を選びながら答えた。
「んっとねー」
「はい」
「めーちゃんはね、おじちゃんのことねー……」
「はい」
「……おげんきにしたいとおもってるよ!」
「はい……えっ」
おげんきとは何ぞや。
町田青年はその思いに固まり、じっとメアリーを見つめる。
メアリーは少し照れくさそうに、かつ誇らしげに言った。
「おじちゃんが、もっとニコニコできるようにしてあげたいなって!」
「ニコニコ、ですか」
「うんっ! めーちゃんはね、そのためにきたんだよ!」
「成程……」
如何わしい意味ではなかったことに、そっと胸を撫で下ろす。
そうして、町田青年は薄く微笑みながら。
「メアリーさんがいるだけで、自分はいつでもニコニコです」
「ほんとっ!? やったぁー!」
そっと、彼女の頭を撫でたのであった。
■メアリーの にっき■
きょうは おじちゃんが へんな しつもんをしたよ。
「めーちゃんが おじちゃんを どうおもってるか」だって。
おじちゃんには 「げんきにするためだよ!」って いうようにいわれたことをいったけど
ホントはね めーちゃん おじちゃんのこと だいすきなんだっ。
おじちゃんが まいにち ニコニコできるように
めーちゃん もーっと がんばるもんね!
あしたもいいこと ありますように!




