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5月20日


 五月二十日。

 あの中年女性は、約束通りやって来た。


「…………ご注文は?」

「珈琲」

「畏まりました」


 睨みつける様な、彼女の視線の先に……町田青年を遮って、夢見が立っている。

 思いもよらぬ介入に、女性はぎょっとしていたが、やがて話を本題に入れた。


「貴方の教育の結果、見せて貰いましょうか。まぁ、杜撰な出来でなければ良いけど」

「あら、ならオバサンがやったら完璧な洗脳になるのかしら?」

「何よ!」

「何も?」

「……まぁ、ともかく。結論を決めるべきだと、自分は思います」


 そう言って町田青年は、メアリーを見やる。

 メアリーはその目線に頷いて、中年女性へと近づいた。


「こんにちは! メアリー・スーです!」

「あら……ちゃんとご挨拶出来るのね、偉いわ」

「うん!」


 流石にメアリーに対して無碍な態度を取る事はない様で、中年女性もその元気な挨拶に微笑みかける。

 しかし、次の言葉は、メアリーにとって予測不可能な物であった。


「ねぇ、メアリーちゃん。お仕事を辞める気はない?」

「え?」

「毎日毎日仕事仕事じゃ、メアリーちゃんもイヤでしょう? 公園で遊んだり、したいでしょう?」

「んー……」


 女性の猫なで声に、メアリーは少しだけ考えこむ。

 可愛らしい唸り声が、今だけは緊張感を生んでいた。

 そして。


「……したい!」

「……そう、そうよね!」

「でも、ヤダ!」

「「「えっ」」」


 思いもよらぬ、答えを出した。

 したいのに、嫌だ。その心が読めず、三人は各々の立場を忘れて呆然としてしまう。


「めーちゃん、こーえんであそぶの、すきよ!」

「え、えぇ、そうよね。なら……」

「でも、おてつだいもすきなの! めーちゃん、どっちもすき!」


 その瞳には、一切の嘘も見えなかった。

 遊ぶのも、お手伝いも好き。それは、メアリーの偽らざる本心である。

 故に。


「だから、めーちゃん、どっちもやりたいっていう、“じゆー”をします!」

「…………っ、そう」


 女性の思惑通りには、行かなかった。

 まるで裏切られたかの様に、女性は珈琲を飲まずに立ち上がる。


「……少しでも虐待が判明してみなさい。出るトコロに出てあげるわ」

「していません」

「お構い無く!」

「フン、どうだか」


 そのまま代金を置いて、女性はずかずかと立ち去ってしまった。

 疑問符を浮かべるメアリーの頭を、町田青年と夢見は嬉しそうに撫で回しながら。


「ありがとうございます」

「今度、公園で遊ぼうね?」

「うんっ!」


 一層、メアリーとの絆を深めるのであった。


 ■メアリーの にっき■


 また へんな おばちゃん きたよ!

 めーちゃんに おてつだい やめたらって。 きいたよ!

 でもでも めーちゃんは おてつだい だいすきなので おことわりしました!

 めーちゃんは じゆーしました!


 おばちゃんが いなくなって みんな うれしそう!

 でも おばちゃん さいご ちょっと わらってた きがする?

 なんでだろ? へんな おばちゃんだったね。


 きょうのばんごはんは すっごくおいしい スパゲティーでした!

 みーとぼうるも おいしかったの! めーちゃん これすき! だいすき!

 あしたもいいこと ありますように!


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