5月16日
五月十六日。
五月も半ばに差し掛かった今日は、困った客が来ていた。
「……こんな子供を! 働かせるだなんて!」
「はい」
「可哀想だと思わないの!?」
「いいえ」
……メアリーを指差しながら、キンキンと喚く女性。
ややお歳を召した彼女は、相も変わらず無表情の町田青年に食って掛かっていた。
「……おじちゃーん。まだぁー?」
「はい。今、お昼ご飯を作りますね」
「逃げないでもらえるかしら!?」
「……はぁ」
事の発端は三時間も前。
何処から聞きつけたのか、この女性は来店するなり町田青年を「悪徳経営者」と評し、メアリーを「悲劇の幼女」として扱い始めたのである。
罵詈雑言には慣れている町田青年であったが、こうも邪魔をされると真摯さよりも面倒さが勝っていた。
こと、メアリーの昼食が遅れているとなれば尚更である。
「業務に差し支えがありますので、今日のところは、お引取り頂けませんでしょうか」
「まぁ! 身内どころか、客に対してもその言い様!?」
「お客様、であれば。お考えさせて頂きますが」
女性は来店するなりこの調子であった。
つまるところ、珈琲の一杯も飲まずに町田青年を糾弾し続けていたのだ。
悪質なクレーマーどころか、ともすれば営業妨害である。
「現状、そちらの主張はどこを終着点としているのか判然としませんし、何より先程より同じ話の繰り返しとなっております」
「それが何か!?」
「一旦お引取り頂いて、また明日。改めてお話し合いとさせて頂けないでしょうか」
「……そう言って、逃げるつもりじゃ」
「貴方一人の為に、店を畳む気はありませんので」
睨みつける女性に対し、町田青年は一切動じずに答える。
やがて女性はぎり、と歯軋りをすると。
「逃げたら承知しませんからねっ!」
と、粗雑な動きで店を出た。
丁寧にお辞儀すると、町田青年は悠々と。
「では、他のお客様もいらっしゃいませんし、お昼にしましょうか」
「はーいっ!」
忘れることにした。
クレーム対応のコツは、客の言いたい本質以外は忘れること。
それが、町田青年の考えであった。
■メアリーの にっき■
きょうは へんな おばちゃんが きたよ!
すっごく がみがみな おばちゃん!
こわいなー。 って おもってたけど おじちゃんが あいてしてくれてたよ。
おじちゃん ずーっと おはなしきいて おいだしちゃった!
おじちゃんは つよい! すごいね!
めーちゃんも おじちゃんみたいに かっこよく あいてできれば いいなっ!
あしたはいいこと ありますように!