1月13日
町田青年は線の細い天然さんである。
一月十三日。七時四十分。
「では、早乙女さんと仲良くお願いします」
「はーい!」
メアリーが元気よく手を挙げ、町田青年がその頭を撫でる。
そんないつもの朝を、いつもの様に惜しんで味わいながら、彼はコートを着込み、玄関ドアに手を掛ける。
「……いってきます」
「いってらっしゃーい!」
いつもの、大事なやり取りを終えて。
町田青年はしっかりとした足取りで、仕事に赴いた。
***
とはいえ、やっぱり仕事が楽しい訳ではない。
「おい町田ァ! さっさとしろォッ!」
「はい」
相変わらず店長の怒号は飛ぶし、相変わらず仕事は忙しい。
手早く作業を済ませ、次の作業へ移る。
「町田さん、この商品って……」
「アイス売り場の隣、常温の棚です」
「ありがとうございます!」
途中、他の従業員の手助けをして、より作業を効率化させる。
簡潔だが、丁寧なその言葉はわかりやすく、他の従業員からも仲良くなるという程ではないものの、信頼出来るものだった。
作業が滞り無く進むのは、偏に町田青年がいるからである。
「…………」
「どうしたんですか、町田さん?」
「あ、いえ」
そんな町田青年が、最近妙に上の空なのは、従業員の中でも話題になっていた。
何せ、仕事の時は機械の様に正確で、コンピューターの様に冷淡な町田青年だ。
飲みにも遊びにも参加しない、人間味の薄い彼の奇行に、皆が興味津々であった。
「お惣菜、何か好きなのあるんです?」
「……そういう訳では、ないのですが」
従業員の一人が、興味本位から聞いてみる。
町田青年の目線上にあったのは、大きめのポテトサラダ。
子ども向けなのか、ポテトサラダの容器には、小さな旗がついている。
「……こういうのは」
「?」
「子どもが、喜ぶでしょうか?」
「え。あー……」
年若い男性従業員は、発言の意図が読めず少し首を捻る。
しかし考えても真意が分からない上、彼は子持ちではない為、結局は素直に答えることにした。
「……多分、喜ぶんじゃないですかね? お子様ランチって人気じゃないですか」
「……成程、ありがとうございます」
「いえいえ」
丁寧にお辞儀をされて、鷹揚に手を振って返す従業員。
その言葉を反芻しながら、町田青年は暫く頷くと。
「……今日は、これも買って帰ろう」
と、今日の惣菜に一品追加することを決めるのだった。
***
「……うわぁ~……っ!」
目をきらきらとさせて、メアリーは今日の晩餐を眺める。
そこには、数々の小料理と、小さな国旗の刺さったポテトサラダ、そしてプッチンプリンがあった。
「すごい!」
「おー、お子様ランチだねー」
「おこさまらんち!」
「ちょっと、腕によりをかけてみました」
少しだけ満足そうに、町田青年は頷く。
卓袱台には様々な料理が並んでおり……三人分の、お子様ランチが出来上がっていた。
「……あの、私達もですか?」
「他の料理を改めて作るのも、面倒なので」
「まぁ、そりゃそうですけど。……この歳になってお子様ランチかぁ」
「いりませんか?」
「いいえっ。もちろん、頂きますっ!」
苦笑いを浮かべる夢見に町田青年は首を傾げる。
恥ずかしいといった感情は、町田青年にはあまりないのだろう。
少し天然気味な先輩に呆れながらも、夢見もまた、メアリーに倣い手を合わせる。
「「いただきますっ!」」
「はい、どうぞ召し上がれ」
そうして、三人合わせて食事を摂る。
いつもの楽しい晩餐会が、いつもよりちょっと豪華に始まった。
■メアリーの にっき■
きょうは おじちゃんが おこさまらんちを つくってくれたよ!
エビフライに ポテトサラダに チャーハンに ハンバーグ!
いろんな おりょーりが たくさん! めーちゃん、これだいすきっ!
プリンは そこを プチってすると おさらに きれーに でてくる!
ぷっちんプリンっていうんだって! おかしやさん、すごい!
また、おこさまらんちが たべれたらいいなっ!
あしたもいいこと ありますように!