5月4日
五月四日。
今日はキャンプ三日目。近くの川へと遊びに来ている。
「つめたーい!」
「うわっ、ホント! つめったぁ……!」
「滑らない様に、気をつけて下さいね」
「「はーい!」」
五月も始まったばかりとなれば、水も冷蔵庫で冷やした様だ。
生水なので飲まない様に注意はしているが、それより身体を温められる物が必要かと、町田青年は石で小さな竈を組む。
火を起こしながら、隣に座っている小動物を見下ろした。
「火に近付き過ぎない様に」
きゅう、と小動物……タヌキが鳴く。
懐いてしまったのか、彼はメアリーの後ろをくっついて歩くことが多い。
メアリーも母性本能を擽られているのか、彼を玩具の様に扱うことなく、優しく撫でるだけに留めているのだ。
「……メアリーさんと遊んでくれて、ありがとうございます」
きゅう、とタヌキがもう一度鳴く。
動物とはいえ、友達が出来たことは素直に喜ばしいことである。そう、町田青年は考えている。
だから、少し可笑しな話だが、動物相手でも御礼は言うべきだと彼は思った。
「でも、明日で最後ですので」
同時に、残酷な現実も知らせるべきだとも、思っていた。
タヌキの暮らすのは栃木の自然。メアリーが暮らすのは東京の街である。
住む場所が違うのだから、いつまでも一緒とはいかないだろう。
「どうか、待たないでくださいね」
待てど暮らせど、次に訪れられるのは何時か分かったものではない。
だからどうか待たず、自然に戻って欲しい。
それは人間のどうしようもないエゴであり、純粋な気遣いであった。
それを受けてか、どうかは誰にも分からないが。
タヌキはきゅう、と鳴くのみであった。
■メアリーの にっき■
きょうは かわあそび したよ!
たぬきさんも いっしょ!
たぬきさん めーちゃんの うしろを ついてくるの!
かわいいね!
かわは とーっても つめたくて きもちいいの!
でもでも ひえると いけないんだって。
だから おじちゃんが スープつくって まっててくれたよ!
やさしいね!
おほしさまが こっちは きらきらしてる!
とーっても きれいで いいおそらだねっ!
あしたもいいこと ありますように!