5月3日
五月三日。
今日は少し風が強いが、キャンプに支障はない。
支障があるとすれば、メアリーの“お友達”くらいだ。
「……このこ、めーちゃんのおともだちー!」
「……これは」
「うわっ、可愛い……!」
ふわふわの毛並みに、くりくりの目。
大人しそうに撫でられながら、彼ないし彼女は穏やかに目を細めていた。
「狸」
「たぬき?」
「可愛いタヌキさんねー! 餌が欲しいのかな?」
そう、タヌキである。
餌を求めてやって来ているのか、それともメアリーに懐いたのか。
メアリーが森に入るや否や現れ、頭を撫でられていたのであった。
「……エキノコックス」
「昨日もちゃんと手は洗ったから、大丈夫だと思いますよ?」
「おててあらったよ!」
「はい。分かっています」
厄介な寄生虫の懸念はあるものの、タヌキは大人しくじっとしている。
とはいえ、野生の獣である。
いつ何時噛みつくかもわからないので、町田青年はそっと子供用の厚手袋を渡す。
「狸と遊ぶ時は、必ずこれをつけてください」
「はーい!」
これで一先ずは……本当に一先ずは安心だろう。
そう町田青年が考えていると、夢見がいそいそとドライフルーツを手に取る。
「餌とか、あげちゃっても大丈夫かな……?」
「……いーい?」
「…………そうですね」
メアリーと夢見に見上げられ、少しだけ考えこむ。
現地人ではない為、ある程度遊びでやったところで、後々自分達が困ることはない。
だが、旅行者が何の気なしに餌をやって、問題化する動物は中々に多いと聞く。
「……見た所野生ですから、あげるべきではないかもしれません」
「うぅん……」
「そっかー……」
「……ですが、自分もこの辺りの事情には、詳しくないので」
そう言うなり、町田青年は懐からパンフレットを取り出す。
キャンプ場で渡された、キャンプ場の説明書代わりの物だ。
隈無く調べたつもりだが、現地で初めて分かることも少なくない為、こういった物も町田青年は重宝している。
受付の場所と時間を確認すると、町田青年は改めて頷いた。
「……スタッフさんに聞いて見ましょう。問題がなければ、餌付けをして良い、ということで」
「「はーい!」」
自分で判断がつかないことは、係員の言うことをしっかりと聞く。
それが、町田家の家訓であった。
■メアリーの にっき■
おともだちは たぬきさんだったよ!
たぬきさんは いぬみたいな たぬきさん!
かわいいけど かまれたら あぶないから てぶくろ だいじ!
さわったら おてても あらおうね!
えづけして いいって きいたら かかりのひとも いいよって いってくれたよ!
りんごとか ばいてんで うってた!
おいしそうに たべてたよ! うれしいね!
またあしたも あえるかな?
あしたもいいこと ありますように!