4月22日
四月二十二日。
今日は、宅急便が届いていた。
「なーに、それ?」
「ラジオです」
「らじお?」
「はい」
包を開ければ、機械製品が顔を覗かせる。
メアリーが片手で持てる大きさのそれは、新品のラジオであった。
「地震対策ですか?」
「はい。後は、音楽も聴ければいいな、と」
「あぁ、他の喫茶店じゃラジオとか流しますもんね」
「はい」
他にも地震対策グッズを幾つか注文していたが、このラジオだけは別口の注文だった為に、先んじて届いたのだろう。
新しい家電を、メアリーは興味津々に見つめている。
「さわっていーい?」
「いいわよー」
「やたっ!」
メアリーは両手で持ち上げると、ぺたぺたとボタンを触ったり、振って音を確かめてみたりしていた。
しかし、いつまで経っても音楽が流れないことに首を傾げる。
「ラジオさん、こわれてる?」
「電源が入ってないだけよ」
「でんげん?」
「ラジオさんのご飯です」
「あー!」
お腹が空いてると仕事が出来ない。
喫茶“MARY”でお手伝いを良くするメアリーにとって、それはよく知っている法則であった。
ワガママ言ってごめんなさい、とラジオに謝るメアリーに、町田青年も夢見も、少し可笑しくなって笑う。
「ラジオさんは、テレビさんとおなじ?」
「はい。他にも食べ方はありますが、コンセントを電源に挿せばお仕事をします」
「たべかたー?」
「お弁当を食べたりとか、ですね」
そう言いながら町田青年が取り出したのは、単3形の乾電池。
蓋を開けて乾電池を入れれば、ラジオはすぐに音を奏で始めた。
「うごいた!」
「電池を入れ……食べれば、ラジオさんは動きます」
「わかった!」
「あれ、手回し式にしなかったんですか?」
「手回し式は、地震対策グッズにあるみたいだったので」
「あぁ、成程」
この御時世、いつ何時どんな災害があるか分かったものではない。
幼女がいきなり居候することがあるのだ。いきなり大地震が起こったところで不思議はないという町田青年の意見には、財布の紐を握る夢見でさえも頷かざるを得なかった。
故に地震対策グッズも、いっぺんに持ち出せる様にリュックサックに入っている物を注文した。
水や食料も、厨房にある程度備えている。対策は万全だ。
そんなある種失礼な扱いを受けている当の幼女は、ラジオから流れる音にずっと耳を傾けている。
今は聞いたことのないアイドルの番組を流している様で、彼女は目をきらきらとさせて聞き入っていた。
「ラジオさん、おしゃべり!」
「ラジオさんはテレビさんと一緒で、色んなお話をしてくれます」
「すごい!」
「そのツマミを弄れば、別のお話をしてくれるからね」
「すごい!!」
新しい家電は、メアリーにとって大歓迎の様だった。
これなら店でも退屈はしないだろうと、町田青年は少しだけ安心していた。
■メアリーの にっき■
きょうは ラジオさんが きました!
ラジオさんは ピンクいろで おしゃべりさん!
いろんなこえで いろんなおはなしを してくれるよ!
あいどる? とかいうのの おはなしが おもしろかった です!
おじちゃんは おそとにもっていきたいなら どうぞって いってくれたよ!
おそとでも きけるって ラジオさん すごいね!
かでんさんは すごいの いっぱい!
あしたは さいがいたいさく? っていうのが とどくんだって。
どんなのが くるのかな? たのしみ!
あしたもいいこと ありますように!