4月12日
四月十二日。
閉店後。今日は少し、アレンジを加えてみた。
「……なーに、これ?」
「蜂蜜です」
「はちみつ!」
「蜂さんのあまーい蜜ね。お店でもたまに使ってるわよー」
「そーなんだ……!」
黄金色を湛える小瓶を見て、メアリーが目を輝かせる。
彼女にはまるで黄金の様に見えているのかもしれないが、実態は市販の蜂蜜を詰め替えただけである。
安物ばかりで申し訳ない、と思いながらも、町田青年は空のグラスに氷を入れ、小瓶を開けた。
「なにするのー?」
「少し、アレンジを」
「アレンジ?」
「はい」
首を傾げるメアリーを余所に、町田青年は蜂蜜をたらり、とグラスへ垂らす。
黄金が糸を引くのを見て、そのまま缶サイダーをグラスへ注いだ。
グラスをストローで傾けて、暫く。
心なしか蜂蜜色を帯びたグラスを、町田青年はそのまま渡す。
「どうぞ」
「いいのー?」
「はい」
「……いただきます!」
疑う素振りもなく、メアリーはストローをちゅうちゅうと吸う。
俄に、サイダーの甘味とはまた違う、仄かな甘味が彼女の目を輝かせた。
「おいしい!」
「良かった」
少しだけ、しょうがをまぜた蜂蜜サイダーは、メアリーの子供舌にも好評な様で、町田青年はホッと息をつく。
時たまこういった新しいメニュー候補の体験をするのも、メアリーの(本人は)知られざる仕事であった。
■メアリーの にっき■
きょうは はちみつさいだーを のんだよ!
はちみつさいだーは はちみつをいれた さいだー!
しゅわしゅわで あまあまだけど ちょっと ぴりりってする!
おいしいので めーちゃんはすき!
サイダーは いっぱいあるから いろいろためしてみたいって おじちゃんは いってた!
おべんきょう がんばって おじちゃん えらい!
あしたもいいこと ありますように!
おいしいのが のめますように!