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心優しき女神

 消えてしまった青年を見詰める、少年の眼差しがあった。そんな少年を、少女が見詰めている。哀れむ様な眼差しだった。この状況を予測できなかった彼を、哀れんでいるのだ。


「ねぇ、テラ……、どうして、なの……?」

「……ルナ。貴方は、私を呼び戻す為だけに、多くの生命を殺してしまった。ソルにはそれが耐えられなかったのよ。貴方が殺しただけでは、私を甦らせるだけの力には、まだ足りない。貴方は、またヒトを殺すつもりだったのでしょう?」

「だって、テラを殺したのは、ヒトだもの!」

「それはもう、大昔の話よ。ねぇ、ルナ。貴方、どれだけのヒトを殺したの?」

「知らない、そんなの、覚えてないよ!」


 癇癪を起こした様に少年が叫んだ。少女が、困った様に微笑む。その掌が、そっと、淡い光を生み出した。驚いて少年が少女の掌を見詰める。その光は、不思議な程、青年を包んでいたそれにそっくりだった。

 少女の掌が、少年の頬に触れた。光を頬に押し当てるようにしている。微かな温もりを感じて、少年は泣きそうに顔を歪めた。その温もりは、青年のそれと同じだった。優しく包み込む、柔らかな力だった。


「ソルは、確かに力を残してくれたわ。」

「でも、ソルはもういないよ……。」

「ルナ。私達は、もう、ヒトの中におりるのはよしましょう。ここで、この誓約の塔で、この世界の逝く末を見据え、守護しましょう?」

「…………嫌だよ、ソルも一緒じゃなきゃ……。」

「ソルはここにいるわ。貴方の中にも。そうでしょう?」

「…………。」


 ぎゅっと、少年は掌を握りしめた。そこには、少女と同じような光がある。青年の力のカケラは、確かに少年の中にも宿っていた。けれど、違う。少年はそう呟く。力はあっても、これは、あの青年ではない、と。

 少年の頬を、涙が伝う。大切だったのだと、彼は知っていた。少女と、青年と、どちらも大切だった。二人共がいてこそ、幸せになれると知っていたのだ。それなのに、もう、青年は、戻らない。

 呼び戻す為の方法はある。けれどそれは、同じ罪の繰り返しだ。あの青年は、自らの為に少年がヒトを殺す事を、望まないだろう。少年がヒトを殺すのを止める為だけに、自らの身を差し出した青年は。


「……ヒドイよ、ソル。」

「そうね。ヒドイわ。彼は、ソル……この世界を照らす、太陽なのに。」

「僕はルナだよ。月なのに。太陽がいないと、駄目なのに……ッ!」

「私はテラ。この世界そのものである星。月と太陽なくして存在できぬ星。それなのにソルは、二人だけで支えなさいと、言うのだから……。」

「3人一緒でないと、駄目なのに……ッ!!」


 叫く様に、少年が言った。それに同意する様に、少女が頷いた。けれど、賽は投げられた。既にもう、全ては戻れない場所まで来てしまったのだ。だからこそ彼等は、これからもこの世界を見詰め続けるのだろう。失われた青年の、願いの為に。




 世界は、新たなカタチへと歩み始める…………。

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