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旅を続ける少年神

——殺さなければならないんだよ。


 やはりそのようにだけ彼は言うのだ。いっそ毒々しい程の微笑みを浮かべて。


——それが当たり前の事だから。


 それ以外の言葉を彼は知らないのだ。まるで無垢な子供の様な声音で彼はそう言うのであった。

 その、願いを知る者はいない。見事な一振りの剣を携えた子供は、ただ笑う。それは歪んだ笑みだった。自我崩壊を起こす寸前の、歪んだ笑みだったのだ。誰も、その事実に気付く事はなかったが。







 

 一人で旅をしているらしい子供が、いた。少年である。外見的に見てまだ16歳程。そんな幼い外見の子供の旅は、危険が伴う。多くの者達が心配げに見るのだが、この少年はそうではなかった。

 心配するよりも先に、多くの者達が、何か不思議なものを感じる。何であるのだろうか。ただ漠然と、擦れ違う人々が何かが違うと思う様な、そんな少年であった。肩の上で揺れる紫がかった黒髪に、深すぎる白銀の双眸。まるで名工が鍛え上げた刀身の様な、非人間的な瞳だった。

 フード付きの、漆黒の長いマントを好んで着ている様だった。その下の衣服が見えない様に、前できっちりと合わされている様は、どちらかというとローブを連想させる。かちゃりかちゃりという音が鳴る事から、帯剣しているのかと思わせた。だがしかし、青白い顔色に無機質な表情が相まって、どうにもこうにも、人形の様に見える少年である。

 そもそも、人であるのかと思う程に、何かが希薄だった。それが瞳の輝きであると、気づくモノがいただろうか。只一人で旅を続ける子供。けれど彼を知る者はいなかった。彼に踏み込んだ者は例外なく、死へを導かれた。細腕の少年に、殺されたのである。

 不意に、少年の背後に人が現れた。突然現れたと言うべきである。その人物は、溜め息をつくような口調で、少年の名を呼んだ。呼び慣れたように、静かに。


「…………ルナ。」

「………………ソル?」


 キョトンとして、少年が立ち止まった。その仕草はひどく幼く映り、擦れ違う通行人達が安堵した様だった。少年を呼び止めたのは、一人の青年だった。少年と良く似たデザインの白いマントを纏い、同じように前をきっちりと締めている。背の中頃まで伸ばされた白髪を無造作に束ねている。そしてその強い感情を宿した鋭い黄金の双眸が、少年を見ていた。

 ルナ、と青年は少年を呼んだ。ソル、と少年は青年を呼んだ。青年が少年の腕を掴み、小さく口の中で何かを呟いた。その瞬間、二人の身体は光の粒子に攫われる様にして、掻き消えた。通行人達の動揺だけをその場に残して。

 二人が次に姿を現したのは、小さな祭壇だった。世界の中央にそびえる高い塔の頂上にある、小さな祭壇。その祭壇の前に立った少年は、不服そうに青年を見た。その場所に立つ事を忌み嫌うのではなく、今は別の場所にいるべきなのだと、言いたげに。


「いきなり何をするんだ、ソル。」

「それはこちらの台詞だ、ルナ。姿をくらまし、お前は何をしようとしている?」

「何を?そんな事今更聞くの?おかしいね、ソル。」


 そういって少年は笑った。青白い顔色の中で、無機質な瞳の輝きだけを残して、無垢な少年の微笑みがそこに浮かんだ。そんな彼を見て、青年はぎりっと歯を噛み締めた。呼び戻せない位置に少年がいる事を、彼は痛感したのだ。

 くるりと入り口へと足を向けた少年の肩を、青年が掴んだ。振り払おうとする少年を押さえ込む様に、青年は腕に力を込める。抗う為に暴れる少年の表情が、徐々に歪む。そこに浮かぶのは怒りと、憎しみと、そして幻滅と、裏切られたという感情だった。それを見た青年が、寂しげに黄金の瞳を瞬かせた。


「邪魔をしないで、ソル。僕は、行かなければならない。」

「違う、ルナ。俺はお前にそんな事をさせるわけにはいかない。」

「どうして?僕等はテラを呼び戻さなければいけない。その為には、もっともっと、多くの生命が必要なんだよ、ソル。」

「そうじゃない、ルナ!テラは、そんな事、望んでいない!!」


 叫ぶ声が、塔の頂上に響き渡った。泣きそうな顔をした青年を見て、少年は冷たい目をした。邪魔をしないで。そう告げる言葉が、惨い程強い力を宿した刃となっていた。

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