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とある兄弟のダンジョン攻略準備

とある兄弟のダンジョン攻略準備~買い物偏~

以前書いた『とある兄弟のダンジョン攻略準備』の続編です。

 読んでいただけたら幸いです。

 ★★★


 「死……死ぬ。……死ぬかと思っ……た」


 俺は、いまだに激痛を訴える脇腹を押さえながら震える足を使って前進する。


 「なに……やってるんだ……兄さん……」


 そのすぐ後ろから、いつも以上に不機嫌そうな我が弟、カノンの声が響いてきた。

 

 「なんで……回復用のポーション持ってないの……?」


 黒髪の俺とは違って特徴的な白髪をかき上げながら問い詰めてくる。

 

 「いや、その、昨日、魔法剣買っちゃったじゃん?それで今、金が5Gくらいしかなくて……」  

 「5Gって下位の薬草(8G)すら買えないじゃん。それ以前にまた、偽魔法剣なんか買ってたの……?」

 

 ただでさえつり目のカノンの目がさらにつり上がる。


 「いや、安かったから……だって、魔法剣が2800Gだぜ!?爆破の魔法を付与された魔法剣がたったの2800Gなんだぜ!?そりゃあ買うだろっ!?」

 「安すぎる時点で偽物って気づこうよ……。ていうか、粗悪品にも程があるでしょ、アレ。なんで、突然刀身が爆発するわけ?」


 こめかみをヒクヒクと痙攣させるカノン。


 「……でも、結果的にそれで敵も倒せたんだし、結果オーライ……じゃね?」

 「その爆発でこっちも瀕死のダメージ受けて、どこが結果オーライなの……?」


 そろそろ怒りゲージがマックスに到達しそうだ。


 「まったく、兄さんはお金の使い方が酷すぎるよ。今回の偽魔法剣と言い、この前の奴隷市場の時と言い……そういえば、なんで今日はゼネリアさん連れてきてないの?」


 ゼネリアは、この前俺が奴隷市場で買ったダークエルフの奴隷だ。


 「今日は、家の片付け任せてきた。あと、風呂沸かしも。ほら、ダンジョン攻略から帰ったら風呂でゆっくりしたいじゃん?いやあ、奴隷がいると助かるなぁ、いろんな意味で」

 「女癖の悪い兄さんに買われたゼネリアさんが哀れで仕方がないよ……」


 ハアと嘆息するカノン。

 だが、そんな弟に俺は不適に笑って見せる。


 「いやいや、女のことでお前にとやかく言われる筋合いはないぜ?なあ、淫魔サキュバス使いのカノンさ~ん?」


 ブチッ。

 あっ、やべ。


 「黙って死ね」


 カノンの右手から放たれた巨大な氷塊が無慈悲に俺を15メートルほど吹っ飛ばした。


 「ボクは、回復用のポーション買ってくるから兄さんは、先に帰ってて」


 地面に伸びている俺を冷たく一瞥したカノンは、市場の方へと消えていった。


 ☆☆☆


 「まったく、兄さんは……」


 ボクは、苛立つ気持ちを押さえつけながら市場の通りを歩いていた。

 ボクの兄、デリク・ステュワール。

 昔から陽気で、暗いこととは無縁の人間だった。

 活発な性格で、ダンジョン攻略を生業とする冒険者になろうと言い出したのも兄さんだった。

 子供の頃から習ってたせいか剣の腕は中々だ。

 小さい頃はボクも兄さんに憧れていた。

 いつも、率先してなにかに挑む兄さんが眩しかった。

 でも、実際は……。


 「ただの後先考えない馬鹿じゃん……」


 考えただけでこの先が不安だ。

 そんなことを考えながら売店の店頭に並んだ色とりどりのポーション類を手に取っていく。

 これからのことを考えると少し多めに買った方が良いだろう。

 そうなると、ボク一人で持つのはちょっとキツイ。

 助っ人を呼ぶとするか。


 「召喚!来い、エリアナ!」


 右手を掲げて呪文を詠唱する。

 すると、足元に出現した紫色の魔方陣から一つの人影が現れた。

 そして……。


 「キュピーンッ☆ご主人様に呼ばれて華麗に参上っ!みんな大好きエリアナちゃんだよぉ♪」


 相変わらずのウザイ台詞と共に出現するボクの使い魔。

 こいつと出会った経緯は……あまり、語りたくないので省略。

 金色の髪をツインテールに結って黒いボンテージ衣装に身を包んだ、この少女。連れてるだけでこっちが変な目で見られるので、極力召喚したくなかったのだが。


 「それでぇ、今日はどんなプレイをお望み~?」


 一気に周りからの視線が冷たくなる。


 「いつ、ボクがそんなものを要求した?ああん?」

 「ちょっ、痛っ、痛いって、ヘッドロックやめて、ご主人様キャラ崩壊してる……」


 やかましい。

 誰のせいだ。


 「まったく、今日は単なる荷物持ちだよ。ポーションを少し多めに買うから運ぶのを手伝ってくれ」

 「分かった!鬼畜労働プレイだね!?」 


 よし、殺すか。 


 「ストップ!ストーップ!ご主人様!目が!目が殺意を持ってるよ!?」

 「よく分かってるじゃないか(ニコッ)。じゃあ、とりあえず死のうか?」

 「ひいいいぃっ!」


 などと、無駄な茶番をやってると。


 「ふふっ。貴方たち仲が良いのね」 


 店から一人の女性が出てきた。

 赤髪を腰まで伸ばした顔立ちの整った女性だ。

 だが、一番目を引いたのは彼女の頭に生えた猫科動物の耳だ。

 獣人種。

 

 「あら、失礼。わたし、バルネア。一応この店の店主よ」

 「店主でしたか。……確かこの店の店主は名高い薬師だと聞いていましたが……まさか獣人の方だったとは」

 「ふふっ。よろしくね」


 そう言って妖艶に微笑む。

 その微笑に少しだけドキッとする。

 どっかの変態エリアナとは、違う自然で大人な仕草。


 「ええ?ご主人様浮気ぃ?」

 「黙れ」


 一蹴する。

 そこでバルネアさんが口を開いた。


 「貴方たち、二人でダンジョン攻略をやってるの?」

 「いえ。こいつはボクの使い魔です。ダンジョン攻略は、兄とペアを組んでやっています」


 むぅーっと頬を膨らませて不機嫌さを表すエリアナの頭を軽く撫でながら言う。


 「へえ?使い魔なんだ」

 「ええ。頼りにはなるんですが、もう少し品があれば……」

 「またまた~。ご主人様ぁ、エリアナちゃんはいつだって上品だよ?」


 ペロッと舌を出して言うエリアナ。


 「どの口が言うか……」


 軽くイラッと来る。


 「ねえ、貴方相談なんだけどわたしも使い魔にしない?」

 「はい?」


 唐突に言ったバルネアさんの一言は、かなりぶっ飛んでた。


 「わたし、そろそろこの店を畳もうと思ってるのよ」

 「畳む?」

 「ええ。最近、わたしたちのような他種族に対する偏見が強くなってきたの。そのせいで売り上げも下がる一方だし」 


 少し悲しげに顔を伏せるバルネアさん。


 「……でも、なぜボクに?」

 「さっき……貴方とその子のやり取りを見ててね。貴方なら隔たりなく、接することができると思ったのよ」


 ……………。

 さっきのエリアナとのやり取りでそんな場面あったかな?

 ヘッドロックかけて死ねと言った覚えしかない。


 「貴方が思っている以上に貴方とその子の関係は暖かいものなのよ」

 「………」


 兄さんなら、こういときに迷わずyesと言えるのだろう。

 そこがボクと兄さんの違いだ。

 どうしても自分の選択に不安を感じてしまう。それが間違っているとは思わない。

 でも。

 でも、時には不安を吹き飛ばすような無根拠の自信と無鉄砲さが必要なのかもしれない。


 「分かりました。いいでしょう」


 こうして、ボクは彼女の主になった。


 ☆★☆★


 「ほら、二人とも早く行くよ」


 自慢の白髪をかき上げながらカノンが歩みを進める。


 「もう、待ってよぉご主人様~☆置いてかないでぇ♪」


 相変わらずカノンにベットリくっついてるエリアナ。


 「ふふっ。せっかちね。坊やは」


 妖艶に微笑むバルネア。


 三人は、今日と言う一日を終えて帰路につく。 

 

 

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