サブメンの帰り道
異常に短いですが許してください
なるべくキリがいいところで区切っているもんで
帰り道。私は理沙にLINEを送った。『サブメンとかいうのに入部することになった』という主旨で送ると、ムンクの『叫び』のスタンプが返ってきた。アニメキャラクターがオロオロしているスタンプも一緒だ。彼女にとって友人のサブメン入部は、スタンプが十個必要なほどの大事件らしい。
私はスタンプを律儀に眺めていき、隣を見やった。部長と恭介さんがぺちゃくちゃおしゃべりしている。
「あの……」
話が弾む二人に口を挟む。
「二人共、線路を渡らなきゃ家に着かないですよ? なんで私たち三人一緒に帰っているんですか?」
「あたし、『マリン』でバイトしてるから」
「親戚がこっちの方で酒屋をしていてね、僕はそこでバイトさせてもらっているんだ」
「ああ、そっすか」
私は『マリン』でバイトする計画をうやむやにした。
「部長、『マリン』で働いているなら、私と会ったことがあると思うんですけど」
「春休み中、ずっとバイト休んでたからね」
私の顔は、鳩が豆鉄砲を食ったようだっただろう。
「バイトって、そんな簡単に休めるもんなんですか!?」
「いや~えへへ~」部長はなぜかヘラヘラ笑い。
「あたしがカウンターの中で微笑んでいるだけでお客さんが来てくれるからさ~。結構なんでも聞いてくれるのよね、店長」
断言させてもらう。部長は将来、絶対苦労すると。
二の句がつげない私をほったらかしにして、二人は再び勝手に話を進める。
「ねえ、恭介。バイトが終わったら、神崎探偵事務所に集合ね!」
「あー、そういえば、ずいぶん長い間遊びに行ってなかったな」
「神崎さんに教えてあげなくちゃいけないしね、遥香が入部したってこと」
「どんな反応するかな?」
「驚いて、呆れて、喜ぶと思うわ」
「そりゃ見ものだな」
恭介さんはクスクス笑い、「それじゃあまたあとで!」と、道を左に曲がる。すぐそこにビールケースが数個並んでいる店があり、『長谷川酒店』という看板も見える。
酒店に飛び込む恭介さんを眺め、それから部長は私の方を見下ろす。見下ろすといっても、私と彼女の背丈は五センチぐらいしか変わらないけど。
「遥香。行くわよ」
「『マリン』のバイトのあと、ホントに探偵事務所に来るんですか?」
「もちろん。あ、そうそう。あたしたちいつも、事務所に行くたびにご飯を食べて帰ってたの。よろしくね~」
「はぁ!? ちょっと部長、ふざけないでくださいよ~」
「ふざけてなんかないわ。さあ、早く行かなくちゃ」
部長はくるりと方向転換し、古井荘の方角へ――と思ったら、なぜか長谷川酒店の方へ。
私は部長を呼んだ。
「栗山部長! 古井荘は反対側です~」
部長も案外方向オンチである。
そんなわけで私は、花咲高校非公認クラブ『神崎探偵事務所花咲高校支所』のメンバーになった。新聞部だったりサブメンだったり、ボリューム満点な一日だった。
ちなみに私はこの日、神崎探偵事務所でハンバーグを四人前作ることになってしまったのだが、それは語る必要性がないので黙っておく。