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4. 過信をしてはいけません

ひらがな文章が結構あります。

苦手な方はすっ飛ばしてください。

くどくどと面倒くさい説明のターンなので特に読まなくても問題ないかと。

あとでまとめられたらなと思っていますが、予定は未定ということでお願いします。







 さて、かれこれ3年時間が経った。残念なお知らせが二つある。普通はいいお知らせと悪いお知らせがあるものだが、どちらも悪い方だった。無念。


 まず一つ目として、ここが乙女ゲームの世界であるという説が濃厚になったということだ。爺に指導させている4人うちの2人が、それぞれ乙女ゲームの通りの適正を見せたからである。ファーガスとミリアーナがそれぞれ剣術と治癒魔法の筋がいいと、爺のお墨付きを頂いた。あの爺が認めたのだ、それはそれは見込みのあるお子なのだろう。嬉しくない。全くもって嬉しくない。ディメトリに関しては未だに虚空を見つめているし、反抗的なリモネは力を入れて学んではいないようだ。彼らが別の能力に目覚める事を祈る。


 さて、二つ目としては私自身の事だ。4人に紛れて爺の特訓をちょっと受けて見たのだが、爺がにこやかな笑みを浮かべて首を横に振っていた。恐らく、才能の片鱗もなかったのだろう。まあ剣は一応貴族令嬢(笑)なんてやっているので必要ないということでいいとしよう。魔法だって、一般生活程度には使えるのだ。いくつか魔法を展開することも、誰もが出来るものじゃないと爺に励ましてもらった。普通は1つか2つらしい。5つは展開できる。しかし、複雑な魔法を編み上げることも苦手だし、どうやら精霊にあまり好かれていないせいか力が少ない。どこまで嫌われなければならないのだろうか。あれ、これももしかして乙女ゲームの悪役だからなのか。まさかね。





「爺、調子はどうかしら」


「皆、なかなかに筋がいいようです。ファーガスは剣の他に体術も見込みがありますよ。今度は狩りにでも連れて行きましょう。ミリアーナに関しては、あの歳では信じられないほどの技術を身につけました。植物が好きなようで、治癒の練習として弱った植物を治療しています。植物は薬にも毒にもなりますので、世話や扱いの方法を教える予定です。ディメトリは一通り課題をこなすものの、あのままでは身につきませんな。リモネも同じく、別の事へ集中しているようです。才能がありそうなので、誠に残念ですな」


 ふうんと言いながら、紅茶に口を付ける。隣では、緊張しているミリアーナが立っていた。そわそわと落ち着きがない。目障りである。


「少し渋いわ。蒸す時間が長いのよ。この茶葉は味が出やすい代わりにすぐに渋くなるわ。茶葉によって蒸す時間、保管、お湯の温度の適正は違うものよ。全て覚えろとは言わないけど、使うものは知っておくべきね」


「わ、わかりましたあ」


 半分涙目のミリアーナはこくこくと頷く。今は侍女の訓練である。掃除は得意なようなので問題はないのだが、服のセンスがいまいちだ。派手なものを好まないためか、地味な服装を選んでしまう。個人的にはそちらでも全然構わないのだが、空気を読まねばならない。つまりは、母の好みに合わせなければならないということだ。母の好みに沿いつつセンス良く仕上げるのは至難の業だから仕方あるまい。流石にもう爺に着替えを任せるわけにはいかないので、今は私がミリアーナの指示を出している。


 紅茶にミルクを追加し、一口飲む。


「ミア、びくびくするのはお止めなさい。何を怯えているのか分からないけれど、今この場所に貴方に危害を加える人がいるとでも?」


「お嬢様の言葉が厳しいだけでは」


「爺はお黙りなさい」


 じとりと爺を睨めば、素知らぬ顔で視線を逸らされた。この屈辱許すまじ。昼食のときにでも嫌がらせしてやる。ミリアーナに関しては、視線を合わせようとしない。私はカップをソーサーに置き、ミリアーナの頬を両手で包んだ。


「私は自分の所有物は大切にするわ。私のものである、という自覚を持ちなさい。貴女はこのイザベラ・ミカロ・トリステンの所有物よ。立場は高くはないけれど、私のものに危害を加えるなんて、奴隷までテレポート状態よ」


「てれぽ?」


「つまり、貴女が馬鹿にされれば私を馬鹿にしたことになる、といいたいの。ミアは使い捨ての道具ではないわ。使い捨てならば、私は爺に頼んでまで貴女達を訓練させたりしない。私はその青い瞳に投資しているの」


 ミリアーナはぐっと唇を噛み締める。手はきつくメイド服のエプロンを握りしめていた。


「わ、わたしがつかいもの、に、ならなければ、すてますか」


 ミリアーナの言葉に、暫し考える。一瞬捨てられそうな子犬が見えた。幻覚だとは知っているけど、確かに見えた。ぷるぷると震えながら、尻尾を丸めながら、必死にくんくん鳴く子犬が。犬耳でも買ってくるかと思ってしまっても仕方がないように思える。


 俯くミリアーナの顔を、ぐいっと強引に上げた。ふにふにの頬から手を離す気はない。子供の頬ってどうしてこんなに気持ちいいのだろう。


「ミア、私を見なさい。ちゃんと目を見るのよ。見つめるだけで相手をどうにかすることなんて、出来ないわ。少なくとも私にはね。よく、目や表情を見なさい。相手の言っている言葉が、本当か嘘かなんてそう簡単に分かるものではないけれど、表情にはパターンがあるわ。言葉に傷つきたくないのなら、その言葉が本心かどうかくらい、見分けられるようになりなさい」


 ミリアーナがぐっと眉根に皺を寄せ、私を見つめる。その青い目に、私のにんまりとした顔が映っていた。


「私は無駄な投資はしないの。爺が幼少期から仕込んだのなら、ある程度は使い物になる筈よ。安心なさい。いいえ、安心してはいけないのかしら。私に拘束される期間が長くなるのだから。残念だけど、使い物にならなくてもそう簡単に解放はしないわ」


「ちがいます、おじょうさま!」


「ベラよ」


「え?」


「ベラとお呼びなさい。誰も彼もお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様。年下に子供扱いされているみたいで嫌だわ」


 8歳になったばかりですけどね。


「ベラさま、わたしはうれしかったん、です」


 ミリアーナは不安そうに、瞳を潤ませる。


「わたしはおかーさんにうられました。わたしができたせいで、わたしのおとーさんはこなくなったと、なんどもなんどもたたかれました。わたしとおなじ、あおいめをしたおじさんにつれていかれたとき、これからどうなるんだろうって、こわくてこわくて。でも、どれいに、なったけど、わたしはおなかいっぱい、たべられます。あったかいベッドでねられます。べんきょうも、できます。だから、うれしい、です」


 顔を真っ赤にして、一生懸命喋るミリアーナに私は嫌な予感がしていた。これは、感動話フラグではないかと。恩を感じてくれるならありがたいけど、これだけ純朴な少女を利用すると考えると心が痛む。あいたたた。嘘ですもちろん。こういう時、どん底に落としたくなってしまうのは私が悪役令嬢としての才能だろうか。しませんよ、損にしかならないことは。ここはにこやかにお礼を言う程度にとどめるかね。


「そう、それはよかったわー。私も嬉しいわー」


 あ、棒読みになってしまった。





 ここが乙女ゲームの世界かという話だけど、一つ賭け事でもしようかと考えた。唐突に。いや、本気で乙女ゲームだと実感していないというか、違うのではないかという希望に縋りつきたくなってしまうので、追い込むことにしたのである。そこで爺に呼んでもらいました、ディメトリ君です。


「こんにちは、ディー」


「……」


 はい、無言ですね。私ご主人さまなんだけど。ディメトリに関しては、こちらを見ようとしない。うろうろと彷徨う視線は、ぱっと見異常だ。


 私はばんっと強く机を叩いた。机がみしっと言ったけど気にしない気にしなーい。令嬢っぽくないとか、気にない気にしなーい。いやん、自分が気持ち悪い。


「主人の言葉に返事をしないって、奴隷としていかがなのかしら」


「……こんにちは」


「はい、こんにちは。今日は聞きたい事があって呼んだの」


 相変わらず目は彷徨う彷徨う。そうそう、賭け事の話だけど、単刀直入に聞いてみる事にした。


「貴方、何が見えているの?」


 びくりとディメトリの肩が揺れた。表情のない顔をしつつも、まだまだ子供だ。図星を疲れれば反応が出る。ほら、驚いたように私の方を見ている。その眼は、信じられないと言っていた。


「どう、して」


「目が彷徨っているんだもの。何か目で追っていると考えるのが妥当よ」


 嘘です、前世情報です。いやまあ、これで精霊ではなく埃とかだったらなでなでちゅっちゅしてあげる。テンションあがり過ぎてキャラが崩壊間際です。


 きょろきょろと視線が落ち着かないのは、何かを追っているわけではないだろう。所謂挙動不審ってやつですね。私はディメトリが口を開くのを待つ。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスな気分である。


 暫くたって、ディメトリが重い口を開いた。


「べつに」


 エ○カか。


「嘘をつくのが下手ね。答えるのに時間を掛け過ぎ。相手にばれないようにスムーズに答えなくちゃ」


 これはこの世に生れてからの経験談。


「ぼ、ぼくは」


「貴方が何を見ているのかなんて、興味がないわ」


 はーい質問覆します。高飛車なご主人様だもの、これくらい当たり前でしょう。


「え?」


「重要な事は、貴方が人とは違う行動をしていること」


 確かそう、乙女ゲームではヒロインちゃんが「変じゃない」「凄いね」「特別ってことだよ」とか言っていたような。ありきたりな心の解錠方法にげんなりしたっけ。あれってさ、ヒロインちゃんでもなければ無理な話だと思う。


 私は椅子から立ち上がり、本棚に近付いて行った。ここにあるのは、もう読み終わってしまった大衆小説である。流行の調査と母の趣味のためのもので、私に愛着はない。その本たちを手に取り、壁に思いっきり投げつけた。ごす、どすという鈍い音を立てて、本は壁にぶつかる。前世の文庫本みたいに薄くないから、壁もノーダメージとはいかない。芸術性を求めているのかと聞きたくなる程、ごてごてした本は母の趣味である。本棚にある本を次々と投げつけていけば、ディメトリは目を白黒させていた。声を掛けるべきか、どうすべきか悩んでいるようだ。


「ご、ごしゅじんさま」


「ねえ、ディー」


 私は本棚最後の本を持ち上げ、にこりとディメトリに笑い掛けた。目が笑っていない自覚はある。本を適当に投げつけ、再び椅子に座りなおした。そして、サイドテーブルに置かれた、ぬるくなった紅茶に口を付けて一服。久々の体力仕事だった。ほら、私って令嬢だし体動かさないから。


「どうだったかしら」


「え?」


 最早初めに会った時の様な、人形っぽい顔は剥がれ落ちている。ただただ、目の前の理解出来ない行動をとる私に、困惑している顔だ。


「私が本を投げつけるのを見て、どう思ったの? 怒らせたか、癇癪を起したか、そういうこと考えたでしょう」


「は、はい」


「でも、私は別に怒っていないわ」


「じゃ、じゃあどうして」


「訳が分からないでしょう?」


 ディメトリはこくこくと首を縦に動かす。そりゃあそうですよね。


「理由はないわ」


「な、ない?」


「理由はないのよ。理解できる?」


「わ、わからない」


「私も分からないのよ」


「え、ええ?」


「ディーがきょろきょろする理由」


 それとこれとどういう関係が、とディメトリの顔は物語っていた。うむうむ、年相応のアホそうな顔である。素晴らしい。


「私は貴方があちらこちらを見ている理由が分からない。だから、ディーがきょろきょろする行動に困惑するわ。今の貴方みたいに」


 ディメトリがはっとしたように私を見つめる。青い目が、私を。


「人と言うのは、理由が想像できない行動に困惑するの。相手は自分と違う生き物であると思ってしまう。するとね、どうしてか相手のことを怖がるのよ。だから、異端者というのは嫌われる」


 ディメトリの目尻にそっと触れる。青い青い目。父の息子である証。この目さえなければ、少なくとも私なんかに利用されることなんてなかった。可哀想な可哀想な男の子。


「分かる、ディー。貴方に何が見えているのかなんて、貴方でないと分からないことよ。貴方の見えているものが存在すると確証するのは、難しいの。貴方にしか、見えていないんだから」


 子供特有のくりくりお目目。アクアマリンの様に、綺麗。取り出したくなる。なんて狂気的な事言いません。


「私がさっき、何も言わずに本を投げ続けた時、困ったでしょう。自分の分からない理由で行動する私に、恐怖を覚えなかった? 理由を知りたいと思うでしょう? 理由が分からないって怖い事なの。だから、演じなさい」


「えんじる……」


「普通の人の様に、相手の理解出来る範囲内の人間の様に演じるの。そうすれば、普通の人のフリが出来るわ。不可解な行動をとる理由を言いたくないのなら、普通のフリをするのが一番よ。貴方一人の世間であれば、好きに生活すればいいわ。でも、私の奴隷なの。私の世間が貴方の世間。周りから浮いているだけなら構わないけど、面倒事に巻き込まれるのはごめんだわ」


 貴族なんて、頭の固い連中の集まり。普通とは違う存在を何よりも嫌う。特に自分へのメリットがない場合。彼はあくまで私の使用人。私を叩く道具にはなっても、自分の武器にはならないのだ。問答無用で面倒事に巻き込まれるだろう。


「演じるのが難しいなら、力を得なさい」


「ちから?」


「社会が異物を認めるのは、力がある存在の場合よ。特に、自分のためになる存在ならね。英雄やら勇者やらって、普通の人より強かったり特別な力があったりするじゃない」


 ディメトリはぼんやりしながらも、私を見ている。話は聞いているようだ。英雄物語とか知らないのかもしれない。あと貸さなければ。


「王様だってそうよ。『高貴な血』という人とは違うものを持っている。だから、王様という他人はなれない役職につけるの。権力という力があるからよ」


「ぼくは、ぼくは」


「貴方はまだ力がないわ。力がないうちは、他人との違いは隠すべきよ。それがどんな違いであれ、利用できる人にとっては力のない貴方は搾取される側よ。これ以上、搾取されるのは嫌でしょう?」


 奴隷にしている私が何か言えたものではないが、少なくとも私よりも環境の悪い場所はある。目立つよりはその他大勢として生きる方が、被害は少ない筈である。まあ、あくまで私の考えた屁理屈だ。ただでさえ目立つ御家柄ご両親格好なのである。これ以上目立つ人材はいらない。


「ぼくには、せいれいが、みえます。せいれいと、はなせます」


「……そう」


 この餓鬼は、話を聞いていたのだろうか。


 え、ちょっと待って。乙女ゲームほぼ確定ルートじゃないっすか。二次創作とかパラレルワールド(あれば)とかの可能性を残してほぼ確定じゃないっすか。


「せいれいがみえると、なにかちからをえますか」


 強い決意を滲ませた、青い青い目が私を射ぬく。やめてくれ、えぐり出すぞ。


「……精霊は魔法の源よ。精霊がいなければ、魔法は使えないわ。もし、精霊があなたのお願いを率先して聞いてくれるなら、貴方は他人の魔法に干渉することができる」


「かんしょう?」


「簡単に言えば、精霊にお願いして他人の魔法を強化したり、弱体化させたり、もしくは発動を阻止できるのよ」


 そう、乙女ゲームではそういう役割だった。職業的には、祈祷師だったか。精霊にお願いするという形で、補助系の術を使っていた。レベルを上げれば、魔法の発動を阻止できるとあり、即死系の魔術を使う上位魔物を倒す際の強い味方である。身体的な補助魔法はあったが、魔法の補助というのは彼だけだ。貴重な存在である。


「でもね、それはとても危険な事なの」


「どうして?」


「例えば、ファーグが私を叩いたとするでしょう」


 ディメトリの手を掴み、私の頬を叩く仕草をする。ぷにぷにお手手にハアハアしちゃう。


「ファーグは私に痛みを与えるつもりはなかったけど、ディーが精霊に知らぬ間にお願いをしていて、叩く力を強化していた。すると、私の頬が真っ赤に腫れあがるのよ。ディーがよかれと思ってやったことが、相手にとっては嬉しくないことがあるの。それをよく覚えておいて。相手のためだと言って何かしようとしても、それが相手のためになるとは限らないってことよ」


 前世の幼馴染は、相手のためならなんでも許されると思っていた。相手のためが、何時の間にやら自分の自己満足に変わってしまう。それほど恐ろしい物はない。悪意のない悪行である。


「わかりました」


「それに、貴方が精霊にお願いするのだから、確実だという確証もないわ。ディーにとっては友達で信頼が出来ても、私にとっては不確かな存在よ。だから、絶対お願いを聞いてくれるという信用は出来ない。それに、相手が意思のあるものであるなら、命令なんてしてはだめよ。それは、私ディーのように主従のような上下関係がある時にしか使えないのだから」


「どうして」


「ん?」


「どうして、しんじてくれる、んですか?」


 前世で知っています、なんて言えません。


「別に嘘でも本当でも構わないだけよ。私は精霊に嫌われているせいか魔法が得意ではないから、それほど魔法を使う機会がないから」


 ディメトリは私の精霊に嫌われている発言を訂正しない。つまりは本当に嫌われているのだろう。これは悪役の力だって信じてる。私自身が嫌われているだなんて、悲し過ぎて信じたくない。


「私にとっては、精霊の見える見えないより、目立たないでいてくれることが重要だもの」


「ほかのひとのまえでは、きょろきょろしません」


「よろしい。まあ、魔法の訓練は頑張りなさい。本当に精霊が見えているならね」


 私は紅茶の御供として爺が置いて行った、お菓子を口に放り込む。しゃくしゃくと食べる飴は、私が作らせたものだ。前世の世界で言う、有平糖と呼ばれるお菓子だ。


 そう、この世界には黄粉がある。最近極東の国から取り寄せた、豆の加工品らしくリアル黄粉だ。


 赤子時代から思った事は、どうやら私の頭には一種の翻訳機能があるらしい。文字や言葉は、自分の前世記憶に近いものに訳されるようで、今のところわけのわからない名詞とは出会っていない。赤子時代に覚醒してすぐ会話が理解出来たのはこのためのようだ。今度他の国の言葉も試してみよう。エンドレスほん○くこんにゃくだったら嬉しい。


 閑話休題。そう、有平糖の話だ。偶然黄粉を見付けた私は、イメージだけを爺に伝えて作ってもらったのである。食べるのは好きだが作るのはからっきしであった私が、レシピやらなんやらを知っている筈がない。イメージだけで見事な完成度の有平糖を作った爺に脱帽だ。さすがである。


「ディー、あーん」


 じーっと精霊(多分)を見つめていたディメトリの口元に、有平糖を近づける。ディメトリは首を傾げながらも、口を開いた。ぽい、っと有平糖を放り込み、噛むように合図をする。飴だと思っているのか、首を傾げながらももぐもぐと噛むディメトリの顔が、徐々に驚きに染まっていく。


「なに、これ」


「有平糖よ」


「ありへ?」


「有平」


「ありへー?」


「まあ飴みたいなものよ。中に黄粉っていう、豆から作った粉が入っているの。口の中ぱっさぱさになるけど好きなのよ」


 もぐもぐと口を動かすディメトリが、きらきらとした目で有平糖を見つめる。すると、びっくりしたように何もない所を見た。困った様に眉根を寄せつつ、私をおずおずと見つめる。


「せいれいが、ありへーたべたいって」


「お好きなだけどうぞ。これは爺が作ってくれているの。お菓子好き?」


「うん、たべるの、すき」


「じゃあ、爺に料理でも教えてもらうのね。自分の好きなものが作れるようになるのは、嬉しい事よ」


 料理がからっきりな私でも、一応大好きなカレーは作れる。カレーがある程度お手軽っていうことは置いておくとして、好きなものが作れるのはいいことだ。ディメトリは、こくこくと頷いている。爺に言わなければ。料理男子はモテますぞ。カレー食べたい。


「せいれいも、ありへ、すきだって」


「そうよかったわ」


「ありへくれた、ごしゅじんさま、きらいじゃないって。せいれいが」


「まあ嬉しいわ」


 魔法は使う予定ないので、好かれようが嫌われようがどっちでもいいが。


 にこにこと笑うディメトリに、私はにこりと笑い掛けた。


「そうそう、ご主人様だなんて、長ったらしくて面倒臭いわ。ベラと呼びなさい」


「ベラ、さま?」


「ええそうよ」


「ベラさま!」


「私のために、努力なさい」


 はーい高飛車女王が通ります通ります。




 さてさて、この3年で変わったことがある。アンドリューのことだ。赤子というのは3年で恐ろしい程成長する。ほぼ一日寝ていた筈の彼は、既に徘徊老人並みに何時の間にやら消えているのだ。探し出す爺が若干疲れた顔をしていた。3歳なんて動きたい盛りなのかね。私は静かにしていたけど。あっ、30過ぎていましたね。


「べらちゃま! かけた」


 とててててと効果音が着きそうなくらい、可愛い走りでアンドリューが近寄ってくる。手にはクレヨンと紙が握られていた。そう、この世界にはクレヨン的なものがある。前世のクレヨンと違って手が汚れたりしない、魔法さまさまなものだ。まあクレヨンで通じるのだからクレヨンで良い。


「御絵描きしたの、アン」


「あん、べらちゃま、かいた」


 アンドリューを追い掛けるように部屋へ入ってきた爺に、お疲れと目線で伝える。きっと突然走り出したのだ。今のところイヤイヤ期がないだけありがたいと思うんだがね。アンドリューが飛び上がりながら見せてくる絵を、なんとか読み取ろうとする。ジャンプするせいでうまく見えないし、まあ3歳児が書いたものなので独創的ということで、良し悪しは分からない。顔かなって思う部分はあるかな。ピカソが描いたと言ったらいくらか金が取れそうなレベル、とだけ言っておこう。あ、この世界にはいなかった。


「あらあら、目が大きくて嬉しいわ。綺麗に書いてくれてありがとう」


 私の言葉に、アンドリューの褐色の鼻が満足気に膨らむ。お気に召したようでなにより。下手な褒め方すると、暫く拗ねるのだ。それが可愛いんだが。


 出会った日は布に包まれていて分からなかったのだが、アンドリューは褐色の肌をしている。他の4人はこの国の人間らしく、白人チックな容姿だ。一方、アンドリューはアラブっぽい。きっと父は異国情緒あふれる美女といい雰囲気になったのだろう。異母兄弟達を見ていれば、父のミーハーっぷりが見て取れるものだ。面食いめ。


「じょーず? じょーず?」


「私よりも上手だわ。次は、この絵を真似してみましょうか」


 私は子供が使う魔術の教科書に書かれた魔法陣を見せる。この魔法陣は、子供が魔法を使うという感覚を覚えるためのものだ。子供好きな精霊が集まるだけの陣なのだが、魔力を精霊に渡す感覚が学べる。あまり魔力を与え過ぎると精霊が集まり過ぎて邪魔だから、魔力量の調整の練習にもなるのだ。


 前世的アンドリュールートでは、7歳の頃に魔力爆発を起こす。魔力爆発は、溜め続けた魔力に耐えきれず、辺り一帯に発散してしまうものだ。別に一面荒れ地になるとかいうのではなく、精霊が凄い勢いで集まってくる。いい精霊も悪い精霊もなんでもかんでもだ。それによっては辺り一帯消し炭なんて自体もありえるが、一応死者は出ていない。ただまあ、アンドリューを中心とした屋敷周辺で、様々な自然現象が七日七晩続くのだ。


 雨が降ったり風が吹いたり雷が鳴ったり暑くなったり涼しくなったり。それを見た両親が彼の潜在能力に涎を垂らしながら、手に入れようと奴隷契約をしたのである。屋敷はめちゃくちゃになったので、その弁償のために奴隷に甘んじているという状況だったような。異母兄弟の中で一番純粋だった彼は、言う通りに働いていたというわけである。心をぼっこぼこにされてもなお、という健気っぷりは前世のショタ好き自称ドSお姉さまには大人気だったようだ。


 まあ彼は既に私の奴隷であるし、屋敷がめちゃくちゃになるくらいどうってことない。面倒臭いが。しかし、魔力爆発は一気に全魔力をなくしてしまう。場合によっては命にかかわるのだ。少しでも魔力を発散させておいた方がいい。基本的な子供は、6歳くらいから魔法の練習を始める。それまでなら、魔力を溜められるからだ。それ以前に魔力爆発を起こす子供の場合、魔力のタンクが小さいか魔力の生成が多いことになる。前世知識では、アンドリューの場合はタンクは寧ろ大きいのだが、魔力生成が人外レベルという設定だ。出来るだけ多くの魔力を使っていたい彼にとって、イザベラに様々な防御魔法を施していたことは唯一の利点であった。


 つまり、魔力爆発すると面倒臭いことになそうなので、ちょっとずつ発散させていこうぜ作戦だ。アンドリューの魔法の才能を、両親に知られるのは得策ではない。出来るだけカードは残しておくに限る。


 3歳児に魔法を学ばせようとする私が変なのか、爺が微妙な顔をして私を見ている。爺が表情を出している時は、暗に何か言いたいときだ。口に出したら不敬なのに表情ならオーケーという、爺の感覚が分からない。


「爺、アンは私が見ているわ。午後からは他の子達の面倒を見て頂戴。もうすぐ二人が起きてくるでしょうからね」


 只今正午少し前。早朝までお楽しみだった二人が起きてくる時間だ。自分の部屋に異母兄弟や爺を呼べるの午前中くらいなものである。異母兄弟は下手に両親と会えば、無駄な行動(嫌がらせ)をさせられるのだ。実に非効率的な人間である。


「御昼食はいかがしましょう」


「きっと二人と食べる事になるでしょうよ。今日は私の誕生日なのよ」


 ただでさえ溺愛されている私と出来るだけ一緒にいたい二人だ。誕生日にかこつけて一日休みをもぎ取ったらしいので、午後から夜まで拘束されるだろう。ちなみにパーティーは翌日である。これまで毎年毎年当日にやっていたくせに、明日になったのには理由があるのだ。


 我が国では、8歳から社交界に出る事が許される。大人の様に夜中までうふふふおほほほなんてしないけど。前世の様に、7歳までは子供は神様のものである的な古い考えがまだあるようだ。カビ臭い御国です事。そんなわけで、何の因果か私の誕生日である今日、パーティーの誘いがあったので行くのである。ちなみに、王太子の誕生日パーティーだ。初回に王族主催ってどうしてかね。


 乙女ゲームのイザベラさんは、王太子と同じ誕生日ということで運命を感じていたようだ。安直というかなんというか。前世の私は有名人と同じ誕生日だったけど別に運命なんて感じないけどな。


「それでは、御用がありましたらお呼びください」


 爺が一礼し、退室する。もう暫くは時間がある筈だ。私はアンドリューがぐりぐりと描く魔法陣を眺める。


 魔法を学ぶのがそれなりの年齢にならなくてはいけない理由が、もう一つある。それは、魔法陣を描けないからだ。ぎりぎり人間か、なんて画力で魔法陣を描いたって、精霊は寄ってこない。魔法陣とは、精霊への手紙のようなものなのだ。精霊が理解できる文字を書いた嘆願書なのである。つまり、精霊が読み取れない様な汚い文字を書いても、精霊には伝わらないのだ。流石に完璧に模写しなければいけない訳ではないのだが、やはり上手い方が精霊に好かれる。


 また、特定の精霊と仲良くなるか、気に入られるかすれば魔法陣を使わなくても魔法を使えるのだ。生活に必要な魔法は頻繁に使うため、個人個人で特定の精霊がいる。私は嫌われているようで、まだ特定の精霊はいないのだが。ともかく、特定の精霊を得るには、まずは魔法陣経由で接触しなければならないというわけである。


 まあ、精霊に好かれると言っても3歳児だ。ちゃんとした魔法陣が始めから描けるとは思っていない。失敗作の魔法陣でも、多少は魔力を放出できる。微々たるものだが、やらないよりマシだろう。





 と、思っていました。すみません。まだまだ大丈夫だろうという過信はいけないと学びました。アンドリューの稚拙な魔法陣は、どうにか見本に似ているかな、程度の仕上がりであった。予定外だったのは精霊の猛烈アピールである。見本を真似したのが分かったのか、微かに似ている程度で反応したのか、アンドリューの周りにもの凄い数の精霊が集まりだしたのだ。精霊特有の甘い香りが部屋に充満する。


 これはやばいっすね。


「べらちゃまあああ!」


 半ベソのアンドリューに、私はあちゃあと頭を抱えたくなった。しませんけど。貴族令嬢なのでね。


「落ち着きなさい、アン」


 魔法陣についているアンドリューの手を、ゆっくりと離す。そうするだけで、多少の精霊が離れていった。私は、アンドリューの描いた魔法陣を指差す。


「よく聞きなさい。これは、精霊さんへの御手紙なの」


「おてがみ?」


「そう。これにはね、子供が好きな精霊さん集まってくださいって書いてあるのよ。貴方の魔力に惹かれて、子供が大好きな精霊さんが集まっているの。精霊さんは、アンの魔力が大好きだからたくさん来たんだわ」


「まりょくってなに?」


「さっき、この絵に触ったら、体から何か抜けていかなかった? 温かい何かが」


 涙目うるうるなアンは、私を見上げながら必死に頷く。見た感じ、一気に魔力が抜けた疲労感や魔力の枯渇は起きていないようだ。普通5歳児でこんな量の精霊呼べないし、呼べたとしても枯渇間際に陥りそうなものだけど。子供好きな精霊が全ての魔力を持っていくわけではないからかしら。


「それが魔力よ。この世界では、精霊さんにお願いすることでいろいろなことをするの」


「いろいろって?」


「水を入れたり、火をつけたり、もの浮かせたり」


 私は先程飲み終わった紅茶のティーカップを引き寄せ、水の魔法陣を取り出す。生活一般に使われる魔法陣は、印刷機のようなものでコピーされ売られている。魔法陣を描く手間が省けるし、質が安定しているのがメリットだ。一般的にはこのようなコピー魔法陣は簡易魔法陣と呼ばれている。簡易魔法陣が描かれた布の上にカップを置き、手を掲げた。


「水の精霊よ、力をお貸しください」


 一瞬にしてカップの中が水でいっぱいになった。


「成長すれば、魔法陣がなくても精霊さんが手伝ってくれるようになるの。私はまだ駄目だけど」


 アンドリューのくりくりな目が見開かれる。目玉が落ちてしまいそうだ。落ちたらコレクションでもしてあげようかしら。まあ狂気的。


「ぼくにも、できるようになる?」


「なるわ。まずは、魔力の制御を始めましょう。精霊さんたちは魔力が大好物なの。魔力は、そうねアンにとっての蜂蜜みたいなものよ。アンだって蜂蜜大好きでしょう」


「すき!」


「精霊さんにとっては、アンはたくさん蜂蜜をくれる人なの。いっぱい蜂蜜があるから、いっぱい精霊さんが食べようと寄ってくるのよ。だけど、蜂蜜がなくなれば精霊さんは帰っていくわ。だから、さっき出ていった温かい魔力をぎゅっと抑えるの。出ていかないようにね。それで、精霊さんに来てくれてありがとうって言いましょう」


「せいれいさんー。きてくれて、ありがと!」


 アンドリューが私の真似をして、お礼を言う。何て純粋で健気な子でしょう! とモンスターペアレント化しそうだ。お礼は言っても言わなくても問題ないのだが、言った方がアンドリューの天使っぷりが上がるだろう。褐色の天使ってなんか禁忌っぽくていいと思うのは私だけだろうか。


 ぎゅっと目を瞑って魔力を押さえようとする。本来ならば、魔法陣から手を離した時点で精霊への魔力の供給はストップするのだ。しかし、アンドリューは普通にしていてもそれなりの量の魔力を放出している。普通の人よりも濃密で多い魔力に、契約が終了しても精霊が帰ろうとしないようだ。一度魔力の放出を止める必要がある。


 そうは言っても、日常生活でだらだら流しっぱなしの魔力を抑えるのは至難の業だ。魔法使い始めのアンドリューが出来るとは思えない。何れは出来るようになってもらわねば困るのだが、今はそれよりも精霊を散らすほうが先だ。


 私は本棚から魔法陣の本を取り出す。この本はこの屋敷の図書館で見つけたものだ。現当主夫妻はあれな感じだが、由緒正しい御家柄なだけあり、所蔵する本は素晴らしいの一言で評価できる。古い書物ばかりなのは、二人が本に興味がないという現れだろうが。それ故、この魔法陣の本は古い。きっと、今ではもっと効率的な魔法陣が多いのだろう。現在使われているような魔法陣はない。


 基本的に、現在普及している簡易魔法陣は使う魔力量が決められている。そのため、自分で魔力量を調整し大きな力を行使するような魔法陣は、自分で描くしかない。逆に言えば、自分で描けば魔力制限を加えない限り、自分の持つ魔力全てを精霊に与えてしまうのだ。あの画力では魔法陣が発動しないであろうと、安直に考えた私の失敗である。今度やる時は魔力制限をしなくては。


 そう、話を戻さなくては。私は古い紙を破かぬよう、慎重にページを捲る。この本には、以前使われていた自分で描くタイプの魔法陣が載っているのだ。確か、その中の一つに精霊の霧散というものがあった筈。集まり過ぎた精霊にお帰りいただく魔法陣だ。


「あったわ」


 やっと見つけたそのページを見ながら、さくっと魔法陣を紙端に描く。魔法陣の模写だけは自信があるのだ。なかなか精霊に好かれない私は、きっと魔法陣が下手だからと簡易魔法陣だけではなく、自筆のものを試す様になった。綺麗に模写しても、精霊は寄ってこなかったが。しょっぱい思い出だ。


「アン、これに指を置いてちょっとだけ魔力を流しなさい。それで、お帰りくださいってお願いするのよ」


 書き上がったインクが渇くよう、少しぱたぱたさせながら私は言う。渇いたかなとチェックした紙をアンドリューに渡した。魔力の制御が出来ないアンドリューならば、指でも大丈夫だろう。


「おかえり、ください!」


 アンドリューが恐々と言った様子で魔法陣に指を触れさせる。ちょんと魔法陣に指が触れた途端、噎せ返るような甘い香りが消えていった。やはりアンドリューの魔力量とそれを放出する量の多さは凄い。


 ふうっと一息つけば、どすんと胸に頭が直撃した。一瞬頭突きかと思えば、アンドリューが抱き着いてきただけである。若干痛い。


「どうしたの、アン」


「こ、こわかったよおおお!」


 顔を上げさせてみれば、号泣していた。なんてこったい。


「別に怪我はしてないでしょう」


「まりょく、とっていかれた」


「精霊にとって、魔力はごはん。魔力をあげてお願いをすると、お願いを叶えてくれるのよ」


「あん、なにもおねがいしてない」


 すんすんと鼻を鳴らしながら、アンドリューが文句を言う。あらあら反抗期かしら。どんと来い反抗期。


「さっき、この絵は御手紙って言ったでしょう。この御手紙に書いてある御願が、アンの御願になるのよ。だから、魔法陣に何が書いてあるか覚えないとね」


 魔法陣に描かれている文字は精霊文字と呼ばれている。精霊の言語なのか、象形文字的なものが書かれているのだが、文字と言うだけありパターンがあるのだ。それを覚える事が出来れば、何の魔法陣なのかも分かるという話である。


「さっきやったように、魔法陣に触れれば誰だってその魔法を使えるの。逆にいえば、魔法陣に触らなければさっきみたいにならないわ」


 泣き過ぎて鼻の頭が赤くなったアンドリューに、にっこりと笑い掛ける。ちっちゃいぷにぷにの手をモミモミするのを忘れない。すぐにぷにぷにはなくなってしまうのだ。


「精霊さんだって、悪い子じゃないの。アンの魔力が美味しいから、いっぱい来たのよ。美味しい御飯をくれるアンに好きになってもらおうって、みんなで集まってきたの。そのように絵にはお願いとして書かれていたから。アンのために」


「ぼくの、ため?」


「そう。だから精霊さんを嫌わないで。あくまでお願いを叶えてくれただけなのよ。アンがお願いを間違えなければ、力強い仲間になってくれるわ。アンが怖い時には守ってくれるし、アンが何か守りたい時には力になってくれる筈よ。だから、魔法の勉強、しましょうね」


「……がんばる」


 子供ってちょろくてありがたいわ。


「じゃあ、爺にお願いしておくわ。そうだ、ちょっとの魔力だけ使う、さっきの魔法陣を描きましょうか。そうすれば、少しだけ精霊さんが来る筈よ。精霊さんと仲良く出来る筈だわ」


「うん!」


 どうやら魔法への恐怖はちょっと減ったらしい。これで魔法使うの怖いぶるぶる状態だったら、いつか爆発してしまうし。まあ若干事故がありましたが、結果オーライということで。魔法陣の文字覚えるよりは一般言語を先に覚えてもらいたいので、魔法陣は暫し先かね。


「いい子ね、アン。ご褒美あげましょうか」


 本棚の奥に隠しておいた、瓶を取り出す。またまた爺に作ってもらったお菓子シリーズである。隠す必要はないのだが、見付かると母や父に貪られる可能性があるので隠しているのだ。爺が美味しいお菓子が作れるとバレたら、持っていかれる可能性もあるのでね。


「はい、あーん」

 きょとんとした顔で首を傾げるアンドリューに、口を開けろとジェスチャーする。口を開けつつ首を傾げるアホ面可愛い。


 雛鳥のように開けた口に、黄金色の塊を放り込んでやる。その途端、アンドリューの顔が輝きだした。きらっきらで眩しい。サングラスが欲しくなりました、まる。


「おいしい! はちみつ!」


「蜂蜜のキャンディーよ。爺に特別に作ってもらったの。のどに詰まらせない様気をつけながら、ゆっくり舐めるのよ」


 子供のお菓子解禁時期については、ママ同士で論争がありそうだが、私は親ではないし前世の様にお菓子厳禁なお国柄ではないので、気にしない。小さいキャンディーなので、間違って飲みこんでも大丈夫だと信じている。


 魔法の勉強のご褒美にでも用意してもらおう。爺に。


 ころころとキャンディーを口の中で転がすアンドリューは、酷くご機嫌だった。先程の小規模事件を忘れているかもしれない。ちょろいな子供。私はふわふわな毛の頭を撫でるのであった。


 しばらく幼児可愛いと愛でていれば、ノックが4回した。


「お入りなさい」


「失礼致します。旦那様と奥様が御起床されました。御昼食は三人で、とのことです」


 時計を見てみれば、正午を過ぎて1時間ほど経過していた。道理で空腹の筈である。


「分かったわ。ミアとモネを呼びなさい。準備します」


 さてさて、本日も気合いを入れて猫を被りますか。








書いていて矛盾があるかもしれないと思ったが書ききってしまいました。

気が向けが調整します。

どんどん主人公が変な方向に向かっていると思っている方、私と同じ意見ですね。

次回パーティーの予定。


6/17 17:25 一部訂正

6/21 17:05 一部訂正

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