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3. 過去を振り返しましょう

やっと乙女ゲーム要素混入に成功。

ただし、それほど設定が活用できない気がしています。

ブックマークやら閲覧やらありがとうございます。





 前世の世界は、今とは全く違うものだった。魔法なんてないし、物事には理由があると考えられてきた。精霊やら神様やら、そういったものによる影響はないとされ、科学で全てが分かると言われていた。私は人間には及ばない世界くらいはあると思っていたが、まあそれは一種のオカルト的人間だと解釈されたのである。


 私には幼馴染がいた。酷く現実的なフリをしていて、夢見がちな女性である。それなりの会社勤務の両親がいたおかげで、それなりに裕福な家庭だった。住宅地に住んでいたので、周りの家も似た様な経済状況の家庭が多く、その中の一つが彼女の家である。私がそれなりに裕福だと思っていた家庭は、彼女にとっては「普通」らしかった。そりゃあ私立の学校の中では普通かもしれない。彼女は井の中の蛙であった。知ろうとしなかったのが、彼女である。謙虚なフリして夢ばかり描く彼女を私は苦手と感じていた。


 何の因果か、小中高大どころか就職先まで同じという、何とも腐り落ちてほしいほどの強固な縁である。





 そんな彼女は、自分の好きなものを私にごり押ししてくるのが好きだった。自分が好きならば皆好きになるとでも思っているのか、と言わんばかりのごり押しである。その中の一つが、とあるゲームだ。


 『異世界に咲く華の如く』というタイトルのゲームは、所謂乙女ゲームであった。王道ストーリーを詰め込み過ぎなんじゃないか、というのが私の感想である。


 大まかなストーリーとしては、地球という惑星の某日の本の国から異世界へ召喚された美少女(笑)が魔王を倒すために、学園で基礎を学んでから旅に出ていくというもので、恋愛と成長と戦闘を楽しめるというものだ。学園で基礎を学ぶなんて、どんだけご都合主義要素なのだろうと突っ込んだ。


 ゲームの仕組みとしては、学園生活で好感度を上げたキャラクターを旅に連れていけるというもので、戦闘力が高かったり能力が素晴らしかったりするキャラクターの好感度は上げにくい。つまり、学園で青田買いしろというものだ。所謂世界の常識というものも、この学園で学んでいく。連れていけるキャラクターは6人まで、皇太子の好感度がMAXになれば、彼も6人とは他に連れていけるそうだ。皇太子が別枠っていうのは如何なものだろう。メインだったのかもしれない。


 割と人数がいる勧誘対象のキャラクターのうち、チートキャラと呼ばれた奴らがいる。それが、先程出会った異母兄弟達だ。彼らは、近年減りつつあった才能の証である、『蒼の証』を持っている。その眼に相応しい程の力を彼らは持っているのだ。


 ファーガスは近隣国では勝てるものはいないと言われるほどの、剣の腕を。


 ミリアーナは今まで誰も成し遂げたことのない、死者蘇生を行えるほどの力を持つ治癒能力を。


 ディメトリは歴史上記録のない、精霊に愛されることを。


 リモネは誰にも見破られることのない変装と、数多くの武器を操る技術を。


 そしてアンドリューは指一つで世界を壊せると言われた、魔術の才能を。


 彼らと攻略したいキャラクターを入れたパーティーならば、ハッピーエンド間違いなしと言われた程である。彼らは能力が高いので、攻略がしにくい。元より人を簡単に信じることがないという、底辺の世界を知っているからこその頑固さを持っているのだ。そういう地道で面倒臭い過程を経ねば仲間に出来ない上に、彼らには魔王よりも手強いのではないかと言われる障壁がある。


 それが、イザベラ・ミカロ・トリステン、私だ。


 イザベラの異母兄弟である彼らは、父に引き取られてから『蒼の証』を見込まれて、いずれ国家を転覆させる時ようの兵器として育てられた。父親に引き取られれば幸せになれるとそれぞれ信じていたが、現実はそう甘くはなく、身分は奴隷として侯爵家で暮らしていくことになったのである。哀れ。


 親馬鹿全開の両親は、彼らの主人をイザベラとし、イザベラを女王とする国家を目指そうとした。まあ、ヒロインが旅に出る前、学園編のラストはイザベラファミリーによる国家転覆を阻止するというものなので、夢は叶わない。その時に、イザベラ含むトリステン家と異母兄弟は処刑されてしまうのだ。


 ヒロインというか、ゲームをする側は彼らの凝り固まった心を解しつつ、手駒を取られまいとするイザベラを撃退しなければならない。慣れたゲーマーでも気を抜けばすぐにイザベラの怒りを買い、奴隷に落とされたり殺されたりとゲームオーバー一直線という、鬼畜仕様である。


 しかし、彼らのうち男3人は攻略対象となっており、全ての攻略対象者を攻略しなければ出てこないという、隠しキャラの出現に必須だったため、皆血眼になってイザベラ撃退をしていた。


 イザベラはとことん愚かしいと言うか、豚父と同じ食生活をしていたため仔豚化しており、ごてごて母の趣味に染まり下品なまでのセンスを持ち、思考は両親の望むまま傲慢で夢見がちな娘となっていた。学園編が終わる時、それがイザベラの最期である。


 痛い。痛いとしか言いようがない。


 私が思い出した、死んだような目をした彼らのイラスト。その原因はほとんどイザベラのせいである。甘さを捨てるために奴隷を殺させたり、気の緩みだと仲のいい友人を殺させたり殺したり、言いつけを守れなければ激しく折檻したり、反抗的な態度をしただけで裸にして屋敷を1周させたりなど、人間としての尊厳をごりごり削るような行為をしていたのだ。よく自殺しなかったと言いたい。まあその精神を根気よく癒せば、攻略出来るというのだから彼らも安直というか、何と言うか。


 毎日の様に家に押しかけていた幼馴染に、無理矢理やらされたせいで、細かいところはうろ覚えだ。しかし、ミーハーな彼女の好んだものなので、そこそこ人気な作品だったように思える。イラストが美麗であるという点と、攻略対象の多さ、戦闘ゲームとしての謎のクオリティ、人気声優が多く起用されていることがその要因だ。私は特に好きではなかったが。皆の好きなものを纏めてみましたと言わんばかりの作品だからである。





 意識がだんだんと浮上する。どうやら一気に記憶が押し寄せ、脳内のキャパではオーバーしてしまったらしい。重い頭を上げれば、ずきずきと奥の方が痛む。軽く知恵熱が出ているかもしれない。


「まさか、ネット上でありがちなことを体験するなんて……」


 今の世に生まれてから、頭が痛くなる事ばかりだ。今のところ非現実的過ぎる。だが、今私が経験している転生は現実である。乙女ゲームの世界かということは、まだ決定していないが。せめてヒロインが召喚されるまでは保留の方がいいだろう。でも、力はつけなければ。ゲームの通りであれば、イザベラに大した力はない。ほとんどは両親の金と媚の力だ。ともなれば、義兄弟の力を借りるしかない。彼らに力をつけさせ、家からの脱出を計画しなければ。


 ヒロインの召喚はイザベラが16歳の時。今から11年後だ。1年かけて青田買いをするので、遅くとも17歳で家はお取り潰しになる。それまで安全とは言えないから、力をつけるのは早い方がいい。


 私は痛む頭を撫でながら、まずはゲームの能力通りの練習を異母兄弟にさせようと思った。彼らがそちらの才能に秀でれば、ゲームのストーリーの可能性が高くなる。


 重要なのは、異母兄弟にも両親にも誰にも私が家からの脱出を考えていると知られないことだ。異母兄弟はいつ裏切るか分かったものではないし、両親なんて言わずもがな。可愛い娘を演じなければ。国内の泥沼に関わり合いたく何てない。


 確か、魔王の出現は今から10年後くらいだったか。召喚する前に自分達で何かしようとはしなかったのか、この国は。突っ込みどころが増えてしまった。


 両親の悪事は上層部にはばれている。金をばらまくから、見過ごされているだけだ。そのせいで、国家転覆寸前まで陥ってしまうのだが。金を寄越すなら悪事を見逃してやるだなんて、いずれ調子に乗ってことぐらい分かりそうなものだ。貴族なんて閉鎖的な社会では、そんな甘い考えが流行しているのか。





 暫く思考の海に沈んでいると、ドアが4回ノックされた。爺たちが戻ってきたようだ。


「お入りなさい」


 入ってきたのは小奇麗になった異母兄弟達である。こう綺麗になれば、ゲームのキャラクターの面影が出てくる。


「なかなか綺麗になりました」


「そのようね」


 私はにこやかに爺へ笑い掛ける。爺は有能だから、きっと私のお願いも叶えてくれる。


「爺、剣は扱えるかしら」


「護身術程度でしたら」


「魔法は?」


「嗜む程度でしたら」


「変装やら他の武器、治癒などはどうかしら?」


「……お嬢様、一体何をなさるおつもりですか」


 爺の顔が強張る。流石に怪しい質問だと気付いたか。


「彼らに力を付けてもらうかと」


「力、ですか」


 黙って立っている異母兄弟を爺が眺める。


「彼らは『蒼の証』持ちよ。何かしら才能がある筈だわ。お父様の様にね」


 父の様に、どこかしらに人よりすぐれている点はある筈である。はい、これは馬鹿にしてますよー。父を尊敬する筈あるまい。


「して、私に何をせよと」


「爺が思う使用人としての最低限の技術と、剣・魔法・治癒・暗躍する能力などを学ばせて欲しいの。才能がなさそうな分野は切り捨てていいわ。伸びそうな所だけでいいから鍛えて頂戴」


「使用人としての技術、ですか」


「ええ。爺は有能だけど、私の満足する使用人が一人だけなんて、侯爵家としてあるまじき状況だわ。だから、全て最低限には出来るようにして。料理洗濯裁縫に庭の手入れとか、いい品物を選べる見る目や私の身支度をこなす腕をね。最低限身に着いたら、彼らの才能によって特化させてくれる?」


 私としてはどうでもいい限りである。しかし、彼らが有能な人材になれば、両親は喜んで尚更私を可愛がるだろう。力となる人材を手に入れるのは、重要な事だ。技術によっては他国でも稼げるものとなる。


「私に彼らを鍛えろ、と」


「爺は有能だもの、できるわよね?」


 拒否は認めないと、侯爵家特有の嘲るような笑みを浮かべる。爺ならそれくらいやってのけるだろうと、ここ数年で思った。


「私の能力全てを彼らに伝えましょう」


「そしたら、爺のお願いを一つ叶えてあげるわ」


「お願い、ですか」


「何かしらあるでしょう。私が思い描く道具として、彼らが出来上がればの話だけど」


「かしこまりました」


 爺が深々と頭を下げる。どんな願いであろうと叶えてやるつもりだった。爺は私にとってはキーパーソンだ。教育という概念のなさそうな両親は、私に家庭教師なんてつけてはいない。私が爺に頼んで、今は学んでいる。博識な爺は、レディとしての教養とマナー、この国の歴史やレディとしてはいらないのではないかと思える程の知識を与えてくれる。きっと、これらは私の宝になる筈だ。


「ちょっと待ちさない」


 そこで、ずっと黙っていたリモネが声を上げる。


「どうかした?」


「どうして私達があんたのために何かをしなければいけないの!?」


「貴方達が私の奴隷になるからよ」


 リモネが唇を噛み締める。私はにっこりと笑ってあげた。


「それに、貴方達のためにもなるわ」


「わ、私達の、ため?」


 ミリアーナがおずおずと発言した。


「ええ。技術は宝よ。もし奴隷から解放される、なんてことがあったら、技術さえあれば金持ちの家の使用人にだってなれるわ。それに、剣の腕や魔法の技術があれば、王の軍隊や王立の研究所で名を上げる事も可能よ。功績さえあれば、一代限りの貴族にだってなれるかもしれないわ。それこそ、公爵家の後継ぎになるよりも簡単な方法ね」


 悔しそうに拳を震わせるファーガスに笑い掛ける。青い眼なんかに頼らず、力でのぼりつめればいい。その方が現実的である。ファーガスもそれが分かったのか、渋々頷いていた。うむ、現実が分かってきたようだ。


「まあ、解放されたらの話だけど」


 解放してやらない、ということをきちんと念押しする。希望をちらつかせる方が、努力するものだ。ちょっとでも甘さを見せれば、どこから逃げだそうとする。今の現状が、そう簡単に覆らない事を知らせるのは、重要な事だ。


「……分かったわ」


 復讐心の炎を瞳の奥で燃やすリモネは、重々しく頷く。いつか、この侯爵家に何かしら復讐する気なのだろう。受けて立とうではないか、と思う。たった数年でどうにかなる程度の家じゃない。それに、技術と言うものはそう簡単に身に付くものではない。いつまで、その復讐心が続くのか見ものである。


 爺や他の哀れな侍女たちを見続けていれば、自分が最底辺にいるとは思いこまないであろうし。


「じゃあ、奴隷の契約をするわね」


 敢えて楽しそうに、嬉しそうに私は言う。胸の前で手を合わせることを忘れない。神経の逆なでは重要だ。


「けい、やく?」


 ディメトリが首を傾げる。


「知らないの? 奴隷は契約と言う名の縛る魔術で主人には逆らえない様にするのよ。それは、命を縛る契約」


 私は机にあった紙に、魔法陣を書いていく。計5枚である。護身用に持たされていた、小型のナイフを持ち、広い机の上にそれを広げ、手を合わせる。


「我、契約を望むものなり」


 じんわりと、魔法陣が光り出す。


「契約の精霊よ、血を捧げし彼のものの命を我の隷属とせよ」


 かっと魔法陣の輝きが増した。


 この世界の魔法は、精霊にお願いをすることで発動する。火をつけたければ、火の精霊に。水がほしければ、水の精霊に。ものを浮かせたければ、風の精霊に。そして、契約の精霊というものがいる。商談とかに活用される精霊は、血を媒介として契約を繋ぐ。契約を破ろうとした時に、警告という罰が下るのである。


 それは契約内容によっても代わり、体が動かなくなるとか、頭が痛くなるとかの軽いものもあれば、少しの違反で体パーンになるものもある。奴隷契約には、体パーンが基本的に用いられるのだ。他の奴隷の戒めとしても有効なためである。


「さあ、魔法陣の中に血を捧げなさい」


 異母兄弟達は顔を見合わせる。私は、彼らを無視して爺が抱いていたアンドリューを抱き上げ、そのぷくぷくとした指にナイフを滑らせた。泣くかな、と思ったらアンドリューはくりくりとした目で私を見つめている。いい子だ。


 ぷつぷつと浮かんだ真っ赤な血を、魔法陣の中央に擦り付ける。そうすれば、魔法陣の光は鈍いものへと変わった。


「前のままでは手に入らない技術や力を与えると言っているのよ。私に隷属する事くらい、してみせたらどうなの? 対価もなしに、何かを得ようとするなんて、馬鹿のすることよ」


 私は彼らを見ずに言う。奴隷になると言う事が、ただの扱いの変化であると思っていたのだろうか。奴隷と庶民のあからさまな違いが、何によるものなのかなど、彼らは考えた事はないのだろう。その命を主人に握られる。逃げる事など出来ない。それが奴隷である。


「指を出しなさい」


 おずおずと指を差し出す4人。私はそれぞれの指にナイフを滑らせた。


 まずはファーガスが魔法陣に指を押し付ける。力が欲しいと、その眼は語っていた。もう少しポーカーフェイスを覚えてもらわなければ。どうでもよさそうな、ディメトリが続いて指を押し付ける。びくびくしながらも、ミリアーナが押し付ける。そして、憎くて堪らないといったように、リモネが指を押し付けた。ぐりぐりと押し付ける必要はないのに、余程腹立たしいらしい。


「彼のもの達が我が命令に逆らいし時、その身に雷の裁きが下らんことを」


 最後の文言を紡ぐと同時に、彼らの首筋を一周するように模様が浮かぶ。これは、契約がなされたという印だ。と、同時に契約違反の罰を下す時の媒介となる。これで、彼らは私の手駒になった。その首筋に描かれたものは、白詰草を編んだものだ。白詰草にはいくつか花言葉があるが、取りあえずは約束ということで。雑草でも、人の解釈によっては玩具にも幸運のアイテムにもなる。彼らにぴったりだろう。


「さあ、貴方達。しっかりと私の役に立って頂戴」


 私が解放されたなら、貴方達も解放してあげる。







コメディーにしたいんですけど、まあ暫しだらだらにお付き合いください。

数話とばしてもさして内容に影響はありません。


6/17 17:25 一部訂正

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